岐阜県の県木・イチイの個性
ーイチイのさし木苗づくりからー

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和



各都道府県のシンボルとして県の木や県木が選ばれています。岐阜県では県木としてイチイが選ばれています。この木を唯一の原材料に用いる一位一刀彫は、イチイの材質と「飛騨の匠」が融合した逸品で、国の伝統的工芸品に指定されています(詳細は本誌689号「一位一刀彫は"岐阜の宝もの"」をご覧ください)。

近年、イチイの天然資源が枯渇し、これに依存する一位一刀彫の原材料確保が難しくなってきました。当所では、新たな調達先としてイチイ人工林に着目し、これを効率的に造成するための技術開発を行っています。今回は、その一環で取り組んでいるイチイの苗づくりを紹介します。



1.イチイの苗づくり

イチイの苗は「実生」(種子を播いて発芽させること)または「さし木」(枝などから根を発生させること)で育成するのが一般的です。実生では、発芽に2年以上要し、その後山行まで育てるのに5〜6年かかることが知られています。一方、さし木は、よく発根し、その後の成長が実生より早いことが報告されています。イチイの効率的な苗づくりには、実生よりさし木が有利と考え、さし木の試験を行いました。

2.イチイの母樹別さし木試験

  1. 母樹
  2. さし木用の材料(枝)を採取する木を母樹と呼びます。イチイには、雄株と雌株があることから、郡上市で生育する雌雄各一株と下呂市で生育する雌一株を母樹に用いました(図1)。

  3. さし木
  4. 4月上旬に各母樹のよく伸長した枝を採取して、図2の1〜4の手順でさし木を行いました。

3.試験結果

試験開始から約5ヶ月後の9月上旬に、さし穂を掘り取って、発根を調査しました。さし穂の発根率は、下呂雌が75%と高く、次いで郡上雌が25%で、郡上雄が全く発根せず0%でした(図3)。イチイのさし木は、よく発根するといわれていましたが、中には発根しづらいものが存在すると思われます。

今回の母樹別さし木試験は、よく発根する下呂雌、少し発根する郡上雌、全く発根しない郡上雄、三者三様の結果でした。どうやら、イチイのさし木の成績は、母樹による差が大きく、個性的なようです。したがって、イチイのさし木苗づくりを効率的に進めるには、さし木で良く発根する母樹を事前に選定しておくことが重要と考えられます。

図1 試験に用いた母樹
図1 試験に用いた母樹
図2 さし木の手順
図2 さし木の手順
図3 さし木結果
図3 さし木結果