過密林に最適な間伐手法は?
〜収益の試算結果から〜

(岐阜県森林研究所) 臼田 寿生



はじめに

過密人工林(以下、過密林)は適切に管理された林に比べ、立木間の距離が近いため、下層間伐(劣勢木を中心に伐る手法)を行う場合には、かかり木が発生しやすい等、作業効率が低下します。このため、作業効率の向上を目的とした列状間伐の採用事例が県内でも多く見られます。当所の調査においても、列状間伐は下層間伐に比べ、間伐時の伐倒や材の搬出の効率が良いという結果を得ており、間伐時だけを考えると列状間伐が有効であるといえるかもしれません。しかし、主伐時までの長期で考えた場合はどうでしょうか。そこで、実際の過密林のデータをもとに列状間伐と下層間伐をそれぞれ繰り返した場合の収益を試算し、過密林における最適な間伐手法を検討しました。

収益の試算方法

試算を行った過密林の概要は表1のとおりです。

試算のパターンは、すべての間伐を下層間伐で行うプラン(以下、下層プラン)と、すべての間伐を列状間伐で行うプラン(以下、列状プラン)の2種類とし、間伐率はいずれも本数率で33%としました。両プランとも林齢50年で試算における1回目の間伐を行い、以降は10年間隔で2度の間伐を行うこととしました。また、1回目の間伐から30年後(林齢80年)には主伐(皆伐)を行うこととし、1回目の間伐から主伐までの収支を試算の対象としました。

試算方法について、林分成長量は当所が開発した「シルブの森・岐阜県スギ版」により算出し、収支は、森林総合研究所が開発した「伐出見積もりシステム」により算出しました。なお、このシステムにより算出される収入は、搬出した材の売上額であり、支出は、材の販売までに要する人件費、機械経費、市場経費および諸経費などの合計額です。売上を算出するための木材単価は、岐阜県森林組合連合会岐阜共販所における2013年12月3日の木材市況を参考に設定しました。

  
表1 過密林分の概要

表1 過密林分の概要

試算の結果

間伐時および主伐時それぞれの収益(当期収益)を比較すると、初回から2回目の間伐までは、列状プランが有利となり、3回目の間伐および主伐時においては、下層プランが有利となりました(図1)。

次に、各プランの通算収益を比較すると、3回目の間伐までは列状プランが有利となりましたが、最終的には、下層プランが列状プランよりも約2割多くなりました(図1)。

このような結果になった主な理由としては、列状間伐は機械的な選木であることから、優勢木を含めた収穫となるのに対して、下層間伐では劣勢木を優先的に伐採するため、間伐後に残る林分蓄積は、下層プランの方が多くなったことがあげられます。

  
図1 収益の試算結果
図1 収益の試算結果  


おわりに

試算の結果から、過密林において列状間伐を繰り返すと下層間伐よりも通算の収益が不利になる可能性があることがわかりました。過密林の最適な間伐手法を検討するためには、目先の効率や収益にとらわれることなく、主伐時までの林分の変化や通算収支を考慮した検討が必要であることがわかりました。

過密林を間伐する場合には、林分構造の健全化を主眼に、まずは下層間伐を検討しましょう。