花粉症の軽減を目指してU
岐阜県産少花粉ヒノキ品種益田5号の発根に有利な光条件を考える

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和



環境省は、花粉症軽減のため、例年この時期に今春のスギ・ヒノキの花粉飛散に関する予測(第1報)を発表し、早めの予防を促しています。

一方、森林サイドでは、森林のたより695(2011年8月)号で紹介したように、花粉量が通常の1%以下である花粉症対策スギ・ヒノキ品種の種苗を普及拡大させるため、この種苗の品質と生産効率を高める技術開発が進行中です。森林研究所は、少花粉ヒノキ品種のさし木技術の開発に加わり、この技術のポイントとなるさし穂の発根条件を組織培養とさし木の両面から検討しています。今回は、さし穂の発根に影響する要因の一つとされる光条件を、岐阜県産少花粉ヒノキ品種益田5号の試験結果から考えてみます。



1.試験内容

ヒノキのさし木では、20〜25cmに調整したさし穂が適し、これより小さくなると発根率が低下するといわれています。しかし、さし穂を採取する母樹に限りがあるため、材料確保の面から事業ベースのさし木では小さいさし穂の利用が有利です。そこで、小さい組織で組織培養とさし木の試験を行いました。
 組織培養の試験は、培養で育成した益田5号のシュート(茎と葉、図1)をさし木のさし穂に見立て約2.5cmに調整し、これをさし床に相当する培地へさし付けた後、光条件を蛍光灯で照度6000または1800Luxとした25℃の恒温室内に設置して行いました。
 さし木の試験は5cmに調整した益田5号のさし穂を鹿沼土のさし床へさした後、さし穂の蒸散抑制のためその上面を透明のフィルムで密閉状態にして、組織培養と同一の恒温室に138日間設置して行いました。



2.益田5号の発根に有利な光条件

組織培養での発根率は、試験期間30日では照度6000Luxが60%以上で、1800Luxより極めて高くなりましたが、60日では1800Luxでも上昇して70%を超え6000Luxと変わらなくなりました(図1)。組織培養では、益田5号の早期発根に照度1800Luxより6000Luxが有利と考えられます。
 さし木の結果は、照度6000Luxと1800Luxの発根率、さし穂からの根数・根長の平均値が変わりませんでした(図2)。試験期間が138日のさし木では、益田5号の発根に対して照度1800Luxと6000Luxの違いが、あまり影響を及ぼさないと考えられます。

図1 組織培養での発根状況
図2 さし木での発根状況(試験期間138日)

今回、組織培養とさし木の試験で、益田5号の発根に対する照度の影響が一致しませんでした。この原因を確かめるには、さし木期間と照度を組み合わせた試験が必要と考えています。この試験結果の中には、益田5号のさし木に有利な照度条件の手掛かりが含まれていると思われます。
 すっかり日本の春の風物詩に定着してしまった感じが強いスギ・ヒノキの花粉症ですが、現在のスギ・ヒノキ林を伐採し、その後に花粉症対策品種を植栽すれば、確実に花粉飛散量が減少します。森林所有者の方に花粉症対策品種への切り替えを選択してもらうためにも、当所ではこの苗の低コスト化と高品質化に繋がる技術開発に努めてまいります。

(本研究は、平成25年度農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業「花粉症対策ヒノキ・スギ品種の普及拡大技術開発と雄性不稔品種開発」により実施しました。)