栗殻だけでキノコを栽培する

(岐阜県森林研究所) 水谷 和人



廃棄物として処分される栗殻

岐阜県の東濃地域では、栗を原料とした菓子製造の加工残渣として『栗殻』が毎年9〜11月の間に約500トン(推定)排出され、その大部分が廃棄物として処分されています。この栗殻は鬼皮、渋皮、果肉カスの混合物で、イガを含まないものです(含水率は約47%、図1)。そこで、処分に困っている栗殻をキノコ栽培に利用する方法について検討しました。対象としたキノコは、短期間で栽培が可能なヒラタケです。
  
図1 栗殻菌床の作成のようす

栗殻でヒラタケを栽培する

通常、キノコの菌床栽培は材料に木材オガ粉等の「基材」とコメヌカ等の「栄養体」を混ぜて、水で含水率を65%程度に調整して行います。

ここでは、栗殻を排出時の状態のままP.P.製栽培袋に1500g詰めて成形し(図1)、120℃で100分間殺菌しました。そこに、市販のヒラタケ種菌を接種し、温度21℃、湿度60%の暗黒室で45日間培養後、屋外に設置したパイプハウス内(無加温)に置いてキノコの発生を行いました。試験は発生時期による違いを見るため、発生時期を3週間ずつずらして行い(T期:10/14〜、U期:11/5〜、V期:11/26〜)、それぞれ9週間管理しました 。結果、内部の日平均気温がおおよそ12℃以上のT期の場合に旺盛なキノコ発生があり、その時の発生量は平均170.4gで、秋季の自然温度を利用して栽培・収穫が行えることが実証できました(図2、図3)。

  
図2 発生時期の違いとヒラタケの発生量
  
図3 パイプハウス内でのヒラタケ発生のようす

従来技術との比較

この試験において、栗殻を乾燥や破砕等の加工を行わずに菌床材料として使用でき、かつ、栄養体や水を加えずに「栗殻100%」の菌床でヒラタケ栽培が可能なことを確認できました。栗殻を排出時の状態のまま袋詰めして加熱殺菌するだけの簡易な方法で菌床を作成できるため、地域の農家の方等が取り組みやすい技術です。今後は地域内の農業関係者等にこの技術を試行してもらい、実用化に向けた諸条件を探索していくことが必要です。廃棄されていた栗殻を地域資源として有効活用し、「地域内資源循環」のモデルとなるよう普及をすすめます。

なお、当該試験は、(独)科学技術振興機構の平成23年度A-STEP FSステージ 探索タイプの支援を受けて久田善純が実施したもので、今年度、優良研究として科学技術振興機構から全国に紹介されました。