マツタケと細菌の不思議な関係

(岐阜県森林研究所) 水谷 和人



【マツタケは減った、胞子も激減】

マツタケの発生量が減った原因はアカマツ林の減少、林内環境の悪化、胞子飛散量の減少が指摘されています。このうち、胞子飛散量は、発生したキノコのほとんどを傘の開く前のツボミの状態で採取してしまうことから、極めて少なくなっていると考えられます。新たなシロの形成は、胞子の発芽が起源になると考えられることから、新たなシロ形成を期待することは、絶望的な状況にあると言えます。


【マツタケの増産に胞子を使う】

マツタケを増産する方法として、林地への胞子散布があります。胞子散布は簡単な方法で誰にでもできます。しかし、マツタケは高価であるため、胞子を得るためのキノコを入手することが困難です。また、胞子は保存が難しく、実験室での試験ではほとんど発芽しません。このため、胞子発芽を阻害する要因や発芽に適した条件について検討し、胞子発芽を高める条件を把握することが必要です。


【細菌が発芽を促進する】

今回、マツタケに付着する細菌を分離し、胞子の発芽に及ぼす影響を調べました。マツタケの胞子を培地に播き、そこにある一種類の細菌を接種して一緒に培養しました。8日間培養した後の状況が図1です。  細菌を接種していない培地のマツタケ胞子の発芽率は0.07%でした。一方、細菌を接種した培地では、胞子が大きく膨らみ、発芽率は最高14.9%に達し、胞子と一緒に細菌を培養すると発芽率が格段に高くなるという結果を得ました。

細菌を無接種 細菌を接種
細菌を無接種 細菌を接種
図1 細菌接種の有無とマツタケの胞子発芽(接種8日目)

【細菌には危険性もあり】

さらに培養を継続し、接種22日目の状況が図2です。胞子の一部が消失していることが観察されます。胞子が消失した場所には細菌が増殖しており、消失の原因は細菌によるものと考えられます。発芽を促進する一方で、細菌との長期間の培養はマツタケの増殖を妨げる危険性もあるようです。 現時点では、マツタケの胞子発芽を促進するメカニズムは明らかにできていません。今後は、細菌の同定や発芽を促進する物質の特定などを明らかにしていきます。これによって、胞子散布によるマツタケ増産の一助となると考えています。

  
図2 消失した胞子(接種22日目)
図2 消失した胞子(接種22日目)
注)培地条件が図1右とは若干異なるため、 胞子の発芽は少ない。