毒きのこには注意しましょう!

(岐阜県森林研究所) 井戸 好美



【はじめに】

本県は、きのこの発生に適した環境にあることから、夏から秋にかけて多くの野生きのこが発生します。しかし、毒きのこによる食中毒(以下、「きのこ中毒」とする)が多く発生するのもこの時期です。
 昭和42年から平成23年までの45年間で34件のきのこ中毒が県内で発生しており、ここ10年間は2年に1回発生しています。
 平成21年9月27日に発生したきのこ中毒では、郡上市の男性が自宅近くの山林で採取した野生きのこを家族とともに夕方食べたところ、翌朝下痢や嘔吐の症状がみられ、その後肝機能障害がみられました。これは、誤って毒きのこを摂食したことが原因と考えられました。
 原因きのこは、本県で過去2名の死者を出しているドクツルタケやシロタマゴテングタケという猛毒のテングタケ類でした。幸い家族全員大事には至りませんでしたが、一つ間違えば大変なことになっていました。
 また、平成19年10月16日に発生したきのこ中毒では、養老町の男性が揖斐川町内の山林で採取した野生きのこを食べたところ、1時間後に嘔吐し、医療機関で治療した結果、大事には至らず同日中に回復しました。
 原因きのこは、県内で最も被害が多いツキヨタケでした。
 2つの事例とも採取した方は、「毒きのことは思わなかった」、「食べられるきのこと思って食べた」と話しています。
 ここで、今一度毒きのこに関する正しい知識を知っていただきたいと思います。


【毒きのこ食中毒予防3原則】

一 毒きのこの特徴を知る
 日本の毒きのこは200種程ありますが、実際に起こっているきのこ中毒事故は、ほぼ10種程の毒きのこによって引き起こされていますので、代表的な毒きのこの特徴を知ることが重要です。

二 知らない、自信のないきのこは絶対に食べない
 きのこに関する知識不足、素人鑑別が中毒の原因となっています。知らないきのこは絶対に食べてはいけません。また、鑑別に自信のないきのこは人にあげてはいけません。

三 昔からの迷信は信じない
 昔から言われている。
「柄が縦に裂ければ大丈夫」
「地味な色は食用、派手な色は毒きのこ」
「虫に食われていれば食べられる」
「ナスと一緒に煮れば食べられる」

 などは全て間違いです。
 そこで、今回は毒きのこの特徴を再度認識してもらうため、毒きのこの中で最も中毒例が多い『ツキヨタケ』と県内で唯一死亡事例がある『ドクツルタケ』及び最近話題となり、食べても触っても危険な『カエンタケ』について特徴と見分け方を紹介します。


『ツキヨタケ』

このきのこは、本県で発生したきのこ中毒34件中19件(56%)と最も多く、全国でも多くの中毒例が報告されています。
 落葉広葉樹の枯れ木や倒木に多数重なり合って発生します。形は半円形で柄は短く、付け根に輪ゴムのような隆起があるのが特徴です。
 中毒症状は、食後30分〜1時間程で嘔吐、下痢などの典型的な胃腸系の中毒を起こします。
 判別法ですが、このきのこには、縦に裂くと柄の付け根に『黒紫色のシミ』があるという特徴があります。
 食用きのこのシイタケやヒラタケ、ムキタケと間違って食べることが多いので、食する前には外見等を良く観察し、柄の付け根のシミを確認する事が重要です。

多数重なり合い発生するツキヨタケ 輪ゴムのような隆起(写真中央)と黒紫色のシミ(写真右)が特徴
多数重なり合い発生するツキヨタケ 輪ゴムのような隆起(写真中央)と
黒紫色のシミ(写真右)が特徴

ムキタケ ヒラタケ シイタケ
ムキタケ ヒラタケ シイタケ
ツキヨタケと間違いやすい食用きのこ

『ドクツルタケ』

このきのこは、写真のように白くて美しい姿をしていますが、致死性の高い猛毒成分を持っており、県内で唯一死者を出した毒きのこです。
 傘、柄ともに白色で、柄の上部にぶら下がった膜質の『つば』があり、根元には大きな袋状の『つぼ』があるのが特徴です。
 中毒症状は、食後6〜8時間後に嘔吐、下痢、腹痛等が非常に強く現れ、場合によっては死に至ることがあります。
 同じ仲間にはシロタマゴテングタケなど猛毒のきのこが多く、殆どが『テングタケ科』に属します。
 柄の上部の『つば』と柄の基部の袋状の『つぼ』(土に隠れていることが多い)が特徴のテングタケ科のきのこは中毒を起こす危険性が非常に高いので、絶対に食べないで下さい。

ドクツルタケ テングタケ科の形態
ドクツルタケ
テングタケ科の形態

『カエンタケ』

このきのこは、近年拡大しているナラ類の枯死木やその周辺に多く生えると言われています。
名前が『火炎茸』というように色はオレンジから赤色で、形は炎が立ちあがるように枝分かれ、とさか状、手の指状となります。
 中毒症状は、食後30分で嘔吐や下痢の胃腸系から神経系の症状が現れ、その後呼吸器不全や脳障害などを経て死に至ります。
 『カエンタケ』は猛毒のきのこですので、絶対に食べないように注意して下さい。
 また、他の毒きのこと異なり、触れるだけで皮膚がただれる場合がありますので、絶対に直接触れないようにして下さい。
 もし、触れたら直ぐに石鹸等でよく洗うか、流水等で洗い流した後、病院で治療を受けて下さい。

  
カエンタケ
カエンタケ

【もし毒きのこを食べたら】

もし誤って毒きのこを食べて吐き気などの症状が出たら、まず食べたものを吐き出すことが重要です。早期に排出することで消化器官への影響を防ぐことができます。このような事前にできる処置を行い、早急に医療機関の診察を受けて下さい。