花粉症の軽減を目指して
花粉症対策スギ・ヒノキ品種の普及拡大技術開発

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和



今年は、多くの地域で例年以上にスギ、ヒノキの花粉飛散量が多い年でした。新たに花粉症に悩まされることになった方も、少なくないと思います。スギ、ヒノキは、花粉症の方にとって目の敵かもしれませんが、林業面からみると重要な造林樹種です。このため、花粉症対策品種が、独立行政法人森林総合研究所(以下、森林総研)と都府県との連携により既に開発されています。

当所では、昨年度から4年計画でこの花粉症対策品種の普及拡大に必要な技術開発を、森林総研や関東の都県と共同で実施しています。



【花粉症対策品種】

これまでに2種類の花粉症対策品種が開発されています。1種類は、今年のように花粉飛散量が多い年でも雄花の着生が僅かである花粉の少ない(少花粉)品種です。これまでに全国では、スギ135品種、ヒノキ55品種が開発されており、これらの中には、岐阜県産精英樹の大野2号(スギ)、益田5号、小坂1号(ヒノキ)が含まれています。 残りの1種類は、雄花が成熟する過程で花粉が正常に発達せず花粉が生産されないという特徴を持つ無花粉品種です。スギでは2品種開発されていますが、ヒノキでは残念ながらまだ開発されていません。



【花粉症対策品種普及拡大のための技術的課題】

花粉症対策品種を普及させるには、その品種の苗が必要です。スギ、ヒノキの造林用の苗は、種子またはさし木で生産されます。

少花粉品種の種子を生産するには、種子を生産する場所で人工的に着花量を高める技術、品質低下を防ぐために少花粉品種同士を効率的に交配させる技術が必要です。

さし木で花粉症対策品種の苗を生産するには、花粉症対策品種を母樹(さし穂の採種個体)とするさし木技術が必要です。スギでは、無花粉スギを母樹とするマイクロカッティング(5cm程度のさし穂を用いたさし木)による大量増殖技術が開発されています。しかし、ヒノキでは、体系づけた試験があまり行われておらず、花粉症対策品種に限らずさし木技術が未確立です。



【当所の取り組み】

当所では、少花粉ヒノキのさし木技術を確立するために「組織培養を活用した発根促進」に取り組んでいます。具体的には、さし木でさし穂に相当するシュート(茎と葉)の発根(写真1)条件を組織培養で探索し、その条件をさし木で検証して、さし木の発根向上に繋がる条件を見つけ出します。組織培養による条件探索を行うこととした理由は、少花粉ヒノキの母樹の個体数が限られること、1本の母樹から採取できるさし穂の量に限界があることによります。さし木試験を体系づけて行うには、大量のさし穂が必要となります。これに対し組織培養では、シュート増殖条件が明らかになれば、シュート増殖を繰り返すことにより無限にシュートを育成できます。さし木で最も重要な発根条件を体系づけて検討する手段に、組織培養が適していると考えました。昨年度は、シュート増殖条件を中心に検討した結果、培地への活性炭の添加が有効であることがわかりました(写真2)。



写真1 シュートの発根試験(品種:益田5号)
シュートの発根試験(品種:益田5号)
             
培養期間0日 0日活性炭なし 0日活性炭あり
培養期間18日 18日活性炭なし 18日活性炭あり
培養期間59日 59日活性炭なし 59日活性炭あり

活性炭なし 活性炭あり
写真2 シュート増殖の検討:活性炭の影響(品種:小坂1号)


少花粉ヒノキのさし木技術の確立については、当所と共同研究を進めている複数の県で検討しています。他県では既存のさし木手法(発根剤、電熱温床、培土などの条件検証)から、さし木技術を確立する取り組みを行っています。最終年度には、当所で行っている組織培養を活用した研究によって得られた成果もさし木条件に加えて検証する予定です。