森林の中には炭素がいっぱい

(岐阜県森林研究所) 水谷 嘉宏



【はじめに】

京都議定書では日本の温室効果ガス削減目標6%のうち3.8%(1300万炭素t)までは、森林が吸収したとみなすことを認めています。間伐の推進などにより森林吸収枠を目一杯活用する施策が進められているところですが、この枠を認めるかわりに「森林のどこにどれだけの炭素が蓄えられているか」を報告する義務を課しています。

森林では炭素を蓄えているプールを5つに区分します。我々が目にする樹木(地上部)、樹木の根(地下部)、枯死木や伐倒木など(以下「枯死木」という)、落葉・落枝、そして土壌です。

今回は平成18年度から県下22箇所の民有林で行ってきた、枯死木と落葉・落枝、土壌(地下30pまで)の調査結果を紹介します(図1)。

    
各調査地の炭素量
図1 各調査地の炭素量


【搬出の影響を受ける枯死木の炭素】

枯死木中の炭素量の平均は4.1t/haでしたが、0tから23tまで大きな開きがありました。最大は調査地4のスギ林で、林内に多くの間伐木が残されていました。伐倒木が全て搬出された可能性もありますが、0tとなったのは調査地5のヒノキ林でした。

枯死木はやがて分解され、炭素も減少していきます。炭素貯留を考えるなら、切り捨て間伐よりも利用間伐、それもエネルギー利用ではなく材料としての利用が望まれます。



【枝葉も積もれば炭素は多い】

落葉・落枝中の炭素量の平均は6.9t/haでした。最大値となった調査地4では、スギの枝葉が大量に堆積していました。無立木地を除いて最小値となった調査地8のヒノキ林は、枝葉が流出して表土が一部現れていました。

落葉が細粉化して流出しやすいヒノキ林では、炭素貯留の面からも下層植生の発達を促す施業が必要と思われます。



【黒色土はやはり炭素が多い】

土壌中の炭素量は、岩石地で0tとなった調査地15を除くと39tから140tとなり、平均は80.2t/haでした。黒色土と呼ばれる土壌は多くの炭素を蓄えていることが知られており、調査地2と4、20の一部が黒色土と判定され、いずれも高い値となりました。土壌断面を褐色森林土と比較すると炭素の違い(黒さ)が一目瞭然です(写真1、写真2)。

土壌中の炭素の源は枯死木や落葉・落枝ですから、昔のような燃料や堆肥としての持ち出しや、落葉や表土の流出が続くようであれば、やがて土壌中の炭素量に影響してくると思われます。

地中深くまで黒々としている黒色土 地表近くのみが黒い褐色森林土
写真1 地中深くまで黒々としている
黒色土(調査地4)
写真2 地表近くのみが黒い
褐色森林土(調査地13)


【県下民有林の炭素量】

県の統計書によれば、県内民有林の蓄積は約13,400万m3ですから、木材中の炭素割合を50%、木材の乾燥密度を0.35として樹幹部の炭素量を試算すると、約2,300万tとなります。一方、今回の調査の平均値に県内民有林面積を掛けて土壌中(地下30pまで)の炭素量を試算すると約5,500万tとなります。森林の炭素貯留量は地下部にも多いことから、目にする森の数倍の森が地下にも茂っていると言っても過言ではありません。