食用キノコの菌床栽培にナラ枯れ被害木を使うとどうなるの?

(岐阜県森林研究所) 上辻 久敏



ミズナラやコナラが枯れている

現在、ブナ科のミズナラやコナラなどが枯れるナラ枯れと呼ばれる被害が発生しています。ナラ枯れは、カシノナガキクイムシという昆虫が運ぶ病原菌により、樹木が枯死する現象です。この被害は、1980年代以降急速に拡大し、2007年までに岐阜県を含む23府県で被害が確認されています。

キノコの発生への影響は

岐阜県では食用キノコの菌床栽培に用いている広葉樹に占めるコナラの割合が高いことから、ナラ枯れで枯死した被害木が栽培用オガコに混入する可能性があります。ところが被害木を使用して栽培した場合、全く問題なくキノコ栽培に使用できるのか、それとも影響があるのか、影響があるなら具体的にどんな点に注意しなければならないのかなど不明なことがたくさんあります。そこで、ナラ枯れ被害木を用いた菌床栽培における影響を調べるために栽培試験を行いました。試験には、ヒラタケ、エリンギ、ナメコおよびシイタケの4種のキノコを用いました(写真1)。

写真1 栽培試験に用いた食用キノコ
写真1 栽培試験に用いた食用キノコ

菌床には、コナラとミズナラの2樹種についてナラ枯れ被害木と被害を受けていない木(健全木)をそれぞれ1本ずつ伐木・粉砕したものを基材として試験を行いました。 栽培試験の結果、キノコの菌糸が菌床中に蔓延する日数について、ナラ枯れ被害の有無による違いは観察されませんでした。しかし、キノコの発生量に関して、キノコの種類で異なる影響がでました。ヒラタケでは、ナラ枯れ被害の有無に関係なく同量のキノコが発生しました。エリンギでは、コナラとミズナラの被害木で共に発生量が減少しました。シイタケでは、コナラの健全木に対して被害木でキノコの発生量が減少しました(写真2)。

写真2 コナラ健全木と被害木を菌床に用いた場合のシイタケ発生の様子
写真2 コナラ健全木と被害木を菌床に用いた場合のシイタケ発生の様子

また、ナメコでは、エリンギやシイタケとは逆に、コナラとミズナラの被害木で子実体の発生量が、健全木よりも増加する傾向がありました。


今後の研究について

今回の試験では、キノコの発生への影響をわかりやすくするために100%被害木だけを用いた条件で試験を行いました。実際には、健全木に対して被害木の混じる割合がここまで高まることは考えにくいので、試験結果よりも現実の影響は小さいことが予想されます。また、ナラ枯れで枯れた被害木を1本伐木して行った試験ですので、他のナラ枯れ被害木で試験を行うと、同じ結果が得られるのかわかりません。今後、ナラ枯れ被害木の何がキノコの発生量に影響したのかについて研究することで、原因が特定されれば被害木を基材として用いる際の評価を可能にしたいと考えています。