スギのオガ粉を使ったキノコ栽培について

(岐阜県森林研究所) 久田 善純



【はじめに】

現在、食料品店に並んでいるキノコの多くは、「菌床」を使って栽培されています。菌床の材料(以下「基材」といいます)には、主にオガ粉が使われています。

【オガ粉の種類】

菌床で栽培されているキノコ品目を、基材に使うオガ粉の種類で分けると、広葉樹のオガ粉で栽培されているもの(シイタケ、ナメコ、マイタケなど)と、スギのオガ粉で栽培されているもの(ヒラタケ、エリンギ、ブナシメジ、エノキタケなど)に大きく分けることができます。
 スギのオガ粉は製材所の端材などをもとにつくられており、一般的に広葉樹のオガ粉よりも安価です。よって、シイタケやナメコ、マイタケなどもスギオガ粉で栽培すれば、生産コストを削減できるのですが、これらのキノコはスギオガ粉のみを基材に使うと、発生量が不安定になったり減少してしまいます。
 その理由には、スギオガ粉に含まれている菌糸成長を阻害する物質(フェルギノールなど)の影響を強く受けてしまうことなどが挙げられます。


【スギオガ粉を使うには?】

今までの、様々な試験研究機関の報告によると、例えばシイタケでは、数ヶ月間野外に堆積したスギオガ粉を基材の2割程度で使うならば、広葉樹オガ粉のみを基材とする場合と同等の収穫量が得られるようです。
 当研究所では、それ以外にスギオガ粉を使いやすくする方法がないか検討してみました。


【ムキタケを使った試験】

当研究所で試験を行っているムキタケは、スギオガ粉では栽培が難しいキノコです。ところが、予備試験として、県内のエリンギ生産者が排出した廃菌床(基材はスギオガ粉のもの)をムキタケ用菌床の基材にいくらか混ぜてみたところ、良好にキノコが発生しました。
 この結果から、「もし、一度キノコ栽培に利用されることによって、スギオガ粉の性質が変化したとすれば、スギオガ粉の上手な利用方法を解明するひとつの糸口になるのではないか」と考え、早速、確認のための詳細な試験を行いました。
 まず、ムキタケ栽培の基材にブナオガ粉を100%使うものを対照区とし、スギオガ粉をそのままの状態で基材に混合する区(図1のA)を設けました。そして、同じスギオガ粉を使って、研究所でエリンギを栽培し、廃菌床にしてから基材に混合する区(図1のB)を設けて、キノコの発生量を比較してみました。

         
試験の方法
図−1 試験の方法
※廃菌床は、エリンギを収穫(1ビン当たり平均100.5g)後に、栽培ビンの中から、掻きだした直後のものを使用

【結果は?】

試験の結果、ムキタケ栽培では、スギオガ粉を基材に25%混合しても対照区と同等の収穫量を得られることが分かりました。しかし、スギオガ粉をエリンギ栽培を通じて廃菌床にしてから使っても、対照区と同等に近い収穫量があるのは25%混合までであり、期待した性質改善の効果は確認できませんでした(図2)。

         
結果
図−2 スギオガ粉及び廃菌床にしたスギオガ粉の混合割合別のムキタケ子実体発生量
※発生量は、1番発生と2番発生の子実体の生重量を足したもの

予備試験時に発生が良好だったのは、生産者が菌床製造時に配合した栄養が廃菌床に多く残り、キノコの生育に強く影響した可能性が考えられました。

今後も、スギオガ粉をキノコ栽培に活用できるよう、様々な視点から研究していきたいと思います。