サンショウ優良苗の生産

(岐阜県森林研究所) 上辻 久敏



サンショウはミカン科の落葉性低木で、特用林産物として食用や薬用に広く利用されています。栽培現場では、一般的に雌株を実サンショウ、雄株を花サンショウと呼んでいます。岐阜県高山市(旧上宝村)では、約40年前から実サンショウの栽培が盛んに行われており、「高原(タカハラ)山椒」としてブランド化を目指しています。しかし、この地域では5〜6年前からサンショウ苗木の枯死が頻発し苗木不足で困っていました。

【サンショウ苗を増殖するには】

サンショウの増殖には、一般的に接木、挿し木および実生繁殖が考えられます。接木が、現地で用いられていますが、接木を成功させるには技術的な経験と台木の育成が必要です。また、旧上宝村は、冬から春先にかけて気温変化が激しく、この気候に接木苗が弱いことが分かってきています。次に、実生繁殖は、成木から大量の種子を採取可能であり、効率的な増殖方法ですが、実生苗から約半数は、実のつかない雄株が作られ区別がつきません。また、苗の品質についても栽培に使用されている親株と必ず同じというわけではありません。一方、挿し木に関してサンショウの成木は分枝数が多く、挿し木を行うのに十分な数の穂木を確保することができ、条件が確立されれば比較的簡易な方法です。さらに、接木と同じく親株と実の収量や品質に関して同じ形質を有している苗を生産できます。しかし、これまで現地の栽培者の方々が挿し木を試されましたがサンショウの挿し木はうまくいっていませんでした。

【挿し木によるサンショウ苗の育成にむけて】

接木に代わる効率的な優良(クローン)苗生産条件の確立を目指して、挿し木試験を行いました。挿し木に使用する枝には、6月末のサンショウ成木から今年度成長した枝(当年枝)で実取り栽培に影響が少なそうな部分を使用しました。試験は当研究所の温室と苗畑を用いて、主に遮光と発根剤処理方法の影響についての検討を行いました。遮光条件は、遮光率50%の寒冷紗を二枚重ねにして全面を覆う条件と西側半面だけ覆い午前中だけ太陽光が差し込む条件および比較対象として遮光および比較対象として遮光がない条件を作りました。

写真−1 遮光条件の様子
写真−1 遮光条件の様子

発根剤処理については、市販されている発根剤オキシベロンを用いて、茎の下部を3時間漬ける処理(浸漬処理)とスプレーで葉面だけにかける処理(葉面処理)を行いました。その結果、遮光を行うことで温室よりも苗畑で発根した個体が多く得られました。一番成績が良かったのは、苗畑において半面遮光した浸漬処理区で発根率は85%、ついで発根剤処理を行わず半面遮光だけでも73%の発根率でした。

写真−2 反面遮光条件での試験結果
写真−2 反面遮光条件での試験結果

一方、無遮光では、発根率は0〜7%でした。一般的には、発根剤処理を行い、湿度が高めに維持される温室の様な条件において挿し木が成功しやすい植物が多いのですが、サンショウは温室よりも苗畑で、適度な遮光をおこなうことが発根個体を得るのに適しているようです。接木に代わる簡単で効率の良い挿し木でサンショウ苗の増産ができるようになりました。