薬用きのこメシマコブに新たな効能を発見

(岐阜県森林研究所) 坂井 至通



【はじめに】

サルノコシカケなどの薬用キノコは、古くから民間薬として、また近年は抗がん活性、抗酸化活性、血圧降下作用などの機能性を持つ健康食品として流通してきました。そして、シイタケ(レンチナン)、スエヒロタケ(シゾフィラン)、カワラタケ(クレスチン)、マイタケ(グリフロン)等のβグルカンに抗腫瘍性活性が認められ、アガリクス(カワリハラタケ)、マネンタケ、ヤマブシタケ、シロキクラゲ、ハナビラタケなど次々と登場しました。しかし、平成18年2月13日に、厚生労働省から「アガリクスを含む製品の安全性に関する食品安全委員会への食品健康影響評価について毒性試験(遺伝毒性試験及び中期多臓器発がん性試験)の結果」が公表され、中国から輸入したアガリクスに毒性成分アガリチンが検出されたと新聞は大きく報じました。「いわゆる風評被害が生じることのないよう正確なご理解を」との注意書きが添えられていたにもかかわらず、アガリクスを始め薬用キノコ全体に大きく影響しました。


【メシマコブの栽培と培養】

メシマコブはサルノコシカケ類のなかでも強い抗がん作用があることが知られており、その子実体(いわゆるキノコ)は、「桑黄」と呼ばれ多くの健康用製品が流通しています。

メシマコブ発生状況
メシマコブ発生状況

これまで私たちは、メシマコブ子実体栽培法や菌糸体培養法を研究してきました。メシマコブ親菌糸を培地基材に置くと、基材を侵食し、周囲の栄養分を吸収しながら生長します。菌糸が伸長して基材に蔓延した後、空気中に向かって気中菌糸体が伸長します。この気中菌糸体を使って、βグルカン以外の低分子抗ガン活性成分の研究を行いました。気中菌糸体には、子実体と同じ成分(メシマコブノール)が含まれていることが解ってきました。そこで、気中菌糸体の培養方法を検討し、短期間(3ヶ月程度)で大量に生産する簡易装置と培地組成を開発しました。

図2
図2

【新機能性低分子成分の分離同定】

森林研究所では新たに神経細胞栄養因子様活性成分の研究を岐阜薬科大学と共同で進め、メシマコブ気中菌糸体抽出物に、活性を認めました。さらに県内企業(アピ株式会社)と成分の分離同定の研究を行い新規化合物(シクロフェレンT〜V)を発見しました。本成分は、認知症防止に有効と考えられ、いち早く特許出願を行いました。


【まとめ】

メシマコブの新たな機能として神経細胞栄養因子様活性に着目し、その活性成分を明らかにしました。この新機能性低分子は、原料が天然物に由来するために、有効成分含量は産地間、品種間、系統種間等で大きく異なっています。原料の品質保証が製品の有効性、安全性を保証するためには、品質確保が重要です。今後、メシマコブ子実体栽培の普及と共に、メシマコブ菌糸体の短期間・大量培養装置による気中菌糸体の大量生産により健康きのこ産業の発展に繋げて行きたいと思っています。

図3
図3