新しい「岐阜県産キノコ」を目指して
−ムキタケの菌床栽培−

(岐阜県森林研究所) 久田 善純



【はじめに】

近年、県内のキノコ生産者の方々などから、珍しくておいしいキノコの栽培技術の開発を望む声が多く寄せられています。それに応えられるよう、森林研究所では、いくつかのキノコの栽培試験を進めていますが、今回は「ムキタケ」の菌床栽培の取り組みについてご紹介します。


【ムキタケとは】

ムキタケは、秋の半ば過ぎに、ブナをはじめ様々な広葉樹の枯れ木などに、重なり合って発生するキノコです。表皮が剥けやすいことから、この名がついたと言われています。
 日本各地に広く分布し、カワムキ、カタハ、ノドヤケなど色々な呼び名で親しまれています。県内では「ムクダイ」などと呼ばれ古くから食されてきたキノコです【写真1】。

写真1 県内の野生のムキタケの様子 (キシメジ科ワサビタケ属)           (学名:Panellus serotinus)
写真1 県内の野生のムキタケの様子

傘の表皮と肉の間にゼラチン層があるので舌触りが良く、鍋物や汁物をはじめ、煮物や炒め物などの料理に合います。一方、菌株によっては苦味を持つものがあります。
 県内では天然のものが、朝市等で少量流通しているのみで、人工栽培は行われていません。そこで、新しい「岐阜県産キノコ」にできるよう県内で採れた野生のムキタケ菌株を使って、菌床による人工栽培技術の確立に取り組んでいます。


【栽培方法】

基本的な栽培方法は、ブナなどの広葉樹のオガ粉に、ふすま、米ぬかなどの栄養体を混ぜ、熱殺菌した培地に菌を植え付けて行うものです。
 【写真2】は、エリンギなどの生産方法と同じように、温度や湿度を管理できる空調施設内でビンを使って栽培したものです。空調の設備を用いる場合は、周年栽培が可能です。

写真2 ビンを使って栽培した様子    (菌床の重量:500g)
写真2 ビンを使って栽培した様子

【栽培上の問題点とコスト低減の取り組み】

ムキタケの菌床栽培の技術は以前から数県の試験場で研究されており、一定の成果が得られています。しかし、未だスーパーなどの店頭に並ぶことはありません。おそらく消費者になじみが薄い点もさることながら、栽培期間が長い割に、それに見合う収量が得られないことも一因であると思われます。【写真2】のムキタケは、栽培に100日以上(うち培養50日)かかっていますが、収量は1番発生で1ビン当たり60〜70g(2番発生を含めると約100g)であり、経営可能なレベルに達していないといえます。また、県内の山林から集めた数種の野生菌株は、菌床栽培で発生したものを試食すると、いずれも苦味がありました。このため、苦味の少ない菌株を探すとともに、苦味を抑える栽培方法の検討が必要です。コスト低減については次の2点から取り組んでいます。

1. 廃菌床を利用した栽培試験
 様々なキノコの生産後に排出される使用済み培地(廃菌床)を、ムキタケの培地の一部に再利用することで材料費を抑えるとともに、廃菌床の混合が栽培期間の短縮化などに及ぼす効果を試験しています。

2. 空調なしの栽培試験
 空調設備のない簡易な小屋で、冬の自然温度を利用して栽培する方法を試験しています【写真3】。空調の投資や運転コストをゼロにすることを狙いとし、菌床の熟成とキノコの発生は、むしろじっくり時間をかけて行う方法です。周年栽培ができず季節性がありますが、収益性が期待できます。

写真3 空調なしで袋を使って栽培した様子(菌床の重量:1000g)
写真3 空調なしで袋を使って栽培した様子

以上のような試験を進めながら、生産者の方々が利用できる技術を開発していきたいと思います。