森林のCO2吸収について(2)
−県内森林の炭素蓄積量−

(森林科学研究所)中川 一


○はじめに
 大気におけるCO2等の温室効果ガス濃度上昇による地球温暖化が進んでおり、グローバルな問題となっています。
 一方、地球温暖化に対する世界的な取り組みについては、一昨年12月、京都で気候変動枠組み条約第三回締約国会議(COP3)が開催され、日本は地球温暖化ガス排出量を2010年には1990年を基準に6%削減する目標で取り組むこととなりました。この中で、CO2は森林で吸収されるため、その吸収量は排出削減目標に加味して評価されることとなっています。
 そこで、県内森林はどの程度大気中のCO2削減に貢献しているか検討してみました。

○県内森林の林木の炭素蓄積量
 林木の炭素蓄積量は、岐阜県森林・林業統計書の数値に基づいて計算しました。林分材積が幹材積であるため、比重と幹、枝・葉、根の全体重量に対する比率を樹種別に乗じ、更に炭素量に換算して算出しました。
 樹種別の炭素蓄積量は、図1のとおりです。林木全体の炭素蓄積量は、4,782万tでした。
 ha当たりの炭素蓄積量は、県平均が58tで、樹種別ではha当たりの林分蓄積の多いスギ林で76tでした。ほかの樹種では、約50〜60tでした。
 樹種別炭素蓄積量は、面積が広く、比重の大きい広葉樹の炭素蓄積が43%と最も多く、次いでヒノキ24%、スギ19%と多くなっています。


図1 樹種別の炭素蓄積量

○県内森林土壌の炭素蓄積量
 土壌の炭素蓄積量は、適地適木調査報告書と当研究所で所有する既存の土壌化学分析データ等から土壌型別に推定しました。
 土壌型別の炭素蓄積量は、図2、3のとおりです。
 土壌型別では、黒色土壌が厚い黒いA層(腐植量=炭素量が多い) が存在するためha当たり約260tとほかの土壌約100tの二倍以上となっています。
 森林土壌全体の炭素蓄積量は、9,505万tでした。県内土壌型別炭素蓄積量は、分布面積の広いBD型土壌、BD(d)型土壌で約70%と大部分を占めています。
 県内全体の炭素蓄積量は、14,287万tで森林1ha当たり175t、県民一人当たりでは68tの蓄積量です。森林土壌は、林木の約二倍の蓄積量がありました。
 県内の1990年のCO2排出量が炭素で478万tであり、これと比較すると排出量の約30年分が森林に蓄積されています。


図2 土壌型別のha当たり炭素蓄積量

図3 土壌型別の炭素蓄積量

○県内森林の年間炭素増加量
 森林における年間炭素増加量は、土壌における年間増加量の推定が困難であり省略したため、林木の炭素増加量だけから算定しました。
 県内森林における年間の炭素増加量は、一年間の材積成長量から伐採量を差し引いて推定しました。なお、伐採量は、素材生産量から利用率により幹材積、更に林木全体に換算しました。
 県内森林の樹種別の年間炭素蓄積増加量を図4に示しました。
 県内の森林は、木材生産の停滞とこれまでの人工林造成により炭素蓄積が大きく増加している段階ですが、一年間の炭素蓄積増加量は、172万tで排出量の36%でした。
 県内森林は、まだ成熟した森林とはなっていないため、林木と土壌の蓄積がしばらくは増加すると考えられます。しかし、森林が成熟すれば、伐採が無くても、森林での炭素吸収量と呼吸量が等しくなり蓄積増が全く無くなります。


図4 林木の年間炭素蓄積増加量

○COP3における削減に加味される森林のCO2吸収量
 COP3で加味される森林のCO2吸収量は、「1990年以降の新規植林・再植林によって造成された森林が約束期間(2008年〜2012年)に吸収する量」から「約束期間の森林減少による排出量」を差し引いた量です。我が国の場合、1990年の温室効果ガス総排出量(炭素量で33,400万t)のわずか約0.3%です。
 森林全体のCO2吸収量がそのまま削減量に加味されれば日本では相当有利です。しかし、ロシア、カナダなどの森林大国では更に有利となり排出削減努力が必要でなくなるため、前述の量が加味されることとなっています。


研究・普及コーナー

このホームページにご意見のある方はこちらまで