森林のCO2吸収について(1)
−森林の炭素循環とその推定法−

(森林科学研究所)中川 一


○はじめに
 地球温暖化は、身近でも頻繁に発生する近年の異常気象の原因と考えられ、重大な社会問題となっています。
 例えば、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)がまとめた世界の地上気温の変化は、長期的な傾向として100年につき約0.6℃の割合で上昇し、最近30年間では上昇傾向が高まっており、この数年間は特に高い気温が目立っています。
 そこで、温暖化ガスであるCO2吸収における森林の果たしている役割を考えるため、森林の炭素循環、森林炭素量の推定法についてまとめてみました。なお、次回には県内森林の炭素吸収量を算定しましたので地球温暖化に対する貢献度について検討してみます。

○世界の炭素循環
 IPCCによると、1980年代の10年間における地球上の炭素量は、植物6,100億tと土壌1兆5,800億tで総炭素量2兆1,900億t存在し、そのうち約1兆5,000億tが森林に存在するという試算があります。地球上には、大気、森林等陸上生態系、化石資源及び海洋の四つの炭素貯蔵庫が存在しています。そのうち森林は、化石資源、海洋の量に比べると相当少く、大気中の量7,500億tに比べると二倍以上が存在し、巨大なCO2の貯蓄タンクとなっています。
 大気に放出される炭素は、化石資源の消費が年55億tであり、熱帯林等の減少によるものが年16億tにも上っており大きな量となっています。一方、森林の再生による吸収量は、年5億tであります。

○森林の炭素循環
 森林内の炭素循環を単純化して示したのが図1です。
 森林の炭素蓄積は、林木の葉における光合成により炭素が吸収されます。しかし、林木は生きていくために呼吸で炭素を放出しています。
 林木が成長する過程では、葉に取り込まれた炭素は、枝、幹、根に分配されるとともに、樹体から離脱する落葉落枝により土壌に供給されます。
 A0層(有機物質層)に供給された落葉落枝は、土壌微生物などにより腐植となり鉱質土層に浸透します。また、土壌微生物等の活動は、林木と同様、呼吸で炭素を放出しています。


図1 森林における炭素循環モデル

○森林の炭素蓄積量、年間増加量
 森林内の炭素は、炭素循環で示しましたように、林木と土壌に存在することとなります。
 林木の炭素量は、葉、枝、幹、根の部分毎の合計有機物量×0.5で求められます。なお、年間増加量は年成長量から求められます。
 土壌の炭素量は、土壌表層のA0層と鉱質土層内の腐植量の合計です。A0層は重量×0.5で求められ、鉱質土層は各層位別に化学分析して求めます。なお、年間増加量は、落葉落枝と根からの供給量を呼吸消費量で差し引いた量です。

○林木の炭素量推定法
 林木の炭素量を推定する方法はいろいろありますが、それぞれ適用により精度が異なります。推定法の概要は次のとおりです。
・林木の成長モデル
 この方法には二つあります。
 一つは、昭和40年代に実施されたIBP(国際生物学事業計画)調査で測定された陸上生態系の現存量、年間成長量を用いる方法です。これは、照葉樹林、温帯性落葉広葉樹林、スギ人工林、アカマツ林等の生態系ごとに成長モデルを作り炭素量を推定するものです。
 もう一つは、林分収穫表等を作成するモデルを用いて推定する方法です。これは、林地生産力に応じた(樹高曲線の作成と林分密度管理図への適用)林分の蓄積量、成長量を推定するものです。例としては、岐阜県で地域森林計画を樹立するためにスギ人工林、ヒノキ人工林、アカマツ人工林、カラマツ人工林、広葉樹林について作成されています。従って、岐阜県森林・林業統計書に掲載されいる森林の蓄積量、成長量はこの方法によっています。県内森林の林木全体の炭素量は、幹材積であるこの数値を枝、葉、根を加えたものに換算すれば簡易に精度高く推定できます。
・タワー観測による評価
森林内にタワーを設定し、樹冠上の大気や森林内をセンサーによりCO2、輻射量、風速、気温、光合成能等を測定し、森林と大気とのCO2収支の測定から炭素循環を推定するものです。(図2)


図2 タワーによるCO2観測

即ち、昼間は大気に比べ森林内が光合成によりCO2が減少し、夜間は呼吸のため森林内のCO2が増加します。また、季節によるCO2の変化により年間の炭素吸収量が推定されます。
 森林での設置は少なく、県内では1993年から岐阜大学流域環境研究センターが高山市にタワーを設置し観測しています。また、今年度から農林水産省森林総合研究所が国内の森林5ヶ所で設置し観測する計画です。
・直接測定
 森林内の樹木を直接伐倒して推定する方法です。森林の毎木調査とサンプリングした立木の葉、枝、幹、根の量の測定から総有機物量を算出し、0.5を乗じて炭素量を推定します。
 年間の炭素増加量は、樹冠解析により推定が可能です。


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