木造軸組構法住宅の耐震性向上に向けて


(林産研究部)富田 守泰


 阪神淡路大震災から三年が経過し、既に最近では地震に対する危機意識が薄れてきているとも言われています。しかし、木材に関連した我々にとって、木造住宅への消費者の不信感とともにやりきれなさが残った出来事でした。このとき以降、耐震性能向上の試験研究がなされ、本年度終了予定となります。まだ、途中経過ではありますが、試験の方向性やその結果について紹介します。

◆現在の林業を成り立たせている軸組構法住宅と説得できる耐震性
 現在の日本の林業は柱や梁、桁といった軸組構法(こうほう)住宅用の構造材を主に生産するために施業をしてきたといっても過言ではないでしょう。その軸組構法の耐震性に疑問を投げかけたのがあの大震災でした。震災後、「軸組構法住宅には筋かいを配置し、端部をしっかり金物で固定する」といった大工の領域が素人の施主に白日の下に曝されたのも事実でした。今後は消費者に説得できる耐震性能が求められます。

◆ 変わる軸組構法住宅と地域で行う耐震試験
 その軸組構法も変わりつつあります。プレカットで継ぎ手、仕口加工し、補助金物で留める構法からメーカー住宅を中心に鉄骨組建てのように接合金物にボルト締めする合理化構法へ変化し始めています。今後は建築基準が仕様規定から性能規定へ変化する中、軸組構法住宅は全て同じ土俵で性能を提示しなければならなくなってきます。
 そこで気になるのが国産製材品の利用です。金物で鉄骨のように組まれた住宅部材として国産製材品の必然性があるでしょうか。地域の木材を使って地域で施工する住宅に必要なのは、新金物構法の試験ではなく、大工の手の内の技術で確保する耐震技術の開発なのです。岐阜県で実施しなければならない住宅の耐震性能試験の方向性がここにあります。

図1 構法と引き抜き防止方法

◆伝統構法の問題点と金物を使わない在来軸組構法
 この方向性が決まった中で気になるのが伝統構法との兼ね合いです。筋交いを使用する以前の伝統構法として貫構法があります。現在でも県北部地域で筋かいを入れずに貫だけで施工する事例を見ることができます。しかしながらこの構法の耐震性を試験しその結果から一般化するにはめり込みの研究等多々ハードルがあります。そこで今回は、柱、胴差、土台と筋かいの在来軸組構法を基本にその接合部を金物をできるだけ使用せずに簡易に加工する技術の開発を実施しました。

◆引き抜き防止に込み栓を見直す
 筋かいを使用していても地震で倒壊した原因の一つは柱と土台や胴差の間の引き抜きでした。柱には自重がかかっているものの、それ以上の引き抜き力が生じて倒壊しています。そこで、補助金物としてT字、V字金物が使用されていますが、大工さんには今一つ人気がありません。金物からの結露からくる土台の腐れや釘を数多く打ち込むことへの抵抗があると思われます。そこで、込み栓を使用しました。込み栓はナラやカシ等堅木で作る自家製の角栓やドリルで穴開けできる丸込み栓が市販されています。長ホゾとしてドリルで穴開けし、込み栓を打ち込む手間は金物を取り付ける手間と遜色ない程度ではないでしょうか。

図2 短ホゾT字金物の変形−荷重図
図3 長ホゾ込み栓

◆意外、強い込み栓
 その性能について、図2、3に示しました。長ホゾとして径18mmの込み栓でもT字金物と同様あるいはそれ以上の結果となりました。強いて問題点を見つけだせば、木質系独特の脆い破壊をすることです。破壊の大半はホゾの込み栓からのせん断です。芯を含む柱では一番脆弱な樹心部に込み栓が打ち込まれるため、ホゾをやめて全て雇いホゾとすればかなりねばり強くなります。

◆改めて見直す現場接着
 地震時の初期剛性を高めるために現場接着剤を使用し、結果を図4に示しました。確かに剛性は高く、最大引き抜き強度も高い結果となりました。しかしながらねばりは全くないため、込み栓などと併用することで効果があると思われます。今後は遅くまで硬化しない接着剤が待たれるところです。

図4 長ホゾ接着

◆みなさんで考えて見ませんか
 本年度は筋交い端部の開発と、壁を造って各接合部を壁耐力で検証する予定です。今後は地域産直住宅をはじめとして各工務店の方々がよりよいアイデアを持ち込んでいただければより身近な形でデータを提供できると思います。ご一報をお待ちしています。


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