木組みの技術を用いた軸組住宅の耐震技術(3)

(岐阜県森林科学研究所)富田守泰


はじめに
 改正建築基準法・施行令に関する告示が昨年6月に施行されました。今回の改正には、構造計算に関わる部分が追加されましたが、今後も、大半の住宅は仕様規定の適用であると想定されます。その仕様規定は阪神・淡路大震災を受けて大幅に充実してきています。その中で、本テーマにもっとも関係する「継手・仕口の特定」は、同等品を認めながらも、限定された金物の使用を義務づけています。
 建築基準法の地震に対する目標は、大地震時に建物が倒壊しないことです。そこで、耐力壁が柱と梁間などの接合部で壊れるのではなく、筋かいや、パネルと柱間の釘など、壁そのもので壊れるようにしています。そこで、接合部である継手・仕口を特定し、それ以外の壁本体の強度を確保することとされています。
 以下に報告する壁耐力試験は、改正基準法による新試験方法により再度試験を要することを前提に、金物と比較したものです。

必要な、壁としての性能評価
 昨年度までの接合部評価は、接合部の引き抜き試験でした。しかし、壁として評価する場合、仕様基準では壁のせん断性能試験を行い、壁倍率で評価するとされています(改正後も同様である)。筋かいを使用する壁倍率は、筋かいの断面に応じ、壁倍率が決まっており、各部位の補助金具もその壁倍率に応じたものを使用することとなっています。
 今回開発した木製筋かいプレートは、壁倍率2を目標としており、その基準に合うことが必要となります。

試験体
 試験した試験体の一部分について報告させていだだきます。柱と桁はスギ120×120mm、土台はヒノキ120×120mm、筋かいはスギ45×105mm断面としました。筋かいを除き、芯持ちで無背割りの天然乾燥材を用い、図-1に示す5種類の試験体を各種3体製造しました。

図1 試験体

 左下試験体は幅1820mmの両筋かいの試験体で、筋かいプレート間の固定方法により2種類製造しました。一つは込栓をほぞに1本とし、一つはさらに横架材プレート間に1本貫通固定しました。右下試験体は同幅の片筋かい試験体で、筋かいプレートの形状により2種類製造しました。一つは125mm幅のプレートで、一つは150mm幅のプレートとしました。
 右上部試験体は比較対象とした金物接合試験体で、同幅の両筋かいとし、筋かいプレートBP2と、かど金物を使用しました。

加力試験方法
 面内せん断試験は、基準法改正以前によりどころとなっていた「JISA1414面内せん断試験(B)タイロッドを用いない場合」により実施しました。加力方法は、変位制御による正負繰り返し負荷とし、一定の加力スケジュールにて手動でコントロールしました。片筋かい試験体は引っ張り筋かいに対する加力方向を正として負荷しました。

試験結果
 図-2に、試験体の荷重と変形角の関係を、最外部を辿った包絡線で示しました。またその結果を表−1に示しました。

図2 荷重−見かけのせん断変形角関係の包絡線
表1 試験結果

金物との比較はほぼ同程度
 基準法改正まで、筋かいの壁倍率はPA、PB試験体のようにハの字に筋かいを配した試験体で行い、引張り、圧縮筋かいの平均として求めていました。 そこで、別途同一材料でBP2金物とかど金物を使用した試験体BPとの比較でPA、PBを検討してみました。
 壁倍率とは、1/120ラジアン時の荷重(P120)で剛性を、2/3Pmaxでせん断強さを、Pmaxγ/2で変形性能を捉えて、その最小値(PO)から求めた値です。結果の大半がP120で決定されていることから剛性の確保が壁倍率での評価に結びつきます。
 結果では、最終的には金物がぎりぎり2倍より上で推移しているのに対し、PA、PB試験体とも一部2倍以下の個体があります。しかし、ほぼ2倍前後で推移しています。またこれらの試験体であっても、最大耐力(Pmax)や変形性能(Pmaxγ)が金物の値よりも高く、ガタなどの改善で十分性能が確保できると思われます。今後はプレートと挿入溝間のガタに対するマニュアルでの明示が必要となります。

柱間一間の筋かいプレートは幅広で
 PC試験体では筋かいの引き抜き角度が低いため、プレートの曲げ耐力以上の加力でプレートが破壊されました。プレートの破壊は脆性的なため、避けねばならなりません。PGでは、プレート破壊はありませんでした。最終的には合板の柱へのめりこみで、ねばり強い形態となっています。

今後作成するマニュアルのポイント
 試験終了後にマニュアルの作成を計画しています。前述のように基準法が改正になり、仕様規定では接合部位により使用金物が決められました。ただ、強度性能が同等以上の手法を認めており、開発された接合方法ごとにその性能に応じて設置できる可能性を含めています。とすれば、特に柱頭、柱脚部の込栓の耐力をどの金物仕様と同等ととらえるかがひとつのポイントとなります。基準法では、長ホゾ込栓が、かど金物よりも低く評価されており、当研究で求めた値と異なります。長ホゾ込栓は、ホゾの余長や樹種、年輪幅でもまったく異なることから、それぞれにデータを出して、その結果を基に設計すべきであると考えます。当面は隅柱以外では、込栓2本で壁倍率2倍耐力壁に使用することが現実的であると考えています。


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