スギ精油の採取方法及びその成分

(森林科学研究所)森 孝博


●はじめに
 精油(Essential oil)は樹木から得られる揮発性物質であり、森林のすがすがしい香りのもととなっている物質であります。最近、これらの人間に対するリラクゼーション効果や抗菌、抗ダニ効果などが知られてきつつあり、高い関心が集まってきています。また、精油は香料を始め芳香剤、入浴剤、消臭剤などとして利用されてきています。
 近年、天然資源の有効利用の面から、製材時に出てくる鋸屑や端材、また林内に放置されている間伐材や枝払い後廃棄されている枝葉などに含まれる精油成分の利用技術の開発が求められています。
 そこで、当所では県内産スギから得られる精油成分の有効利用を図るため、スギ精油成分の特性について試験を行っているのでその概要を報告します。

●精油の採取法
 精油の採取法には大きく分けて蒸留法と抽出法があります。蒸留法は最も簡単で経済的な方法であるので多く利用されております。しかし、香りに関係する分子量の小さい揮発性の高い物質を採取できない場合もあります。
 このほかに圧搾法などがありますが、樹木由来の精油を採取するのには向いていません。

○蒸留法
 蒸留法には水蒸気蒸留法と熱水蒸留法があります、水蒸気蒸留法は原料(葉や木粉)に高温の水蒸気をあて水蒸気とともに出てくる部分を冷却して精油を得る方法です。また、熱水蒸留法は原料を水の中に入れ煮沸し、この時水蒸気と一緒に出てくる部分を冷却し精油を得る方法です。水蒸気蒸留法に比べ高沸点の化合物まで採取できると言われております。図−1はよく行われている水蒸気蒸留法の仕組みを示したものです。

○抽出法
 抽出法は、熱に対して不安定な物を採取する際に用いられ、有機溶媒抽出法、超臨界流体抽出法があります。
 有機溶媒抽出法はヘキサン、エーテル、メタノールなどの有機溶媒によって抽出する方法です。溶媒の種類によって抽出される物も異ります。また、揮発性成分以外にも揮発しにくい成分も抽出されてきます。
 そして、近年開発されたのが超臨界流体抽出法です。二酸化炭素などの超臨界流体を用いて抽出する方法です。超臨界流体とは一定の圧力と温度(二酸化炭素の場合臨界温度31.1℃,臨界圧力75.2kgf/cm2)をかけることにより得られる流体であり、気体と液体の中間的な性質を持っています。この方法は高額な装置を要するため抽出コストもかかります。
 しかし、抽出に使用した二酸化炭素は室温で放置すると揮散して抽出物だけが残ることになります。このため二酸化炭素の使用を考慮しても、有害な有機溶媒は使用しないので環境にも優しい方法といえます。また、低温下での抽出が可能であるため熱に不安定な物質も抽出することができます。
 さらに、圧力と温度を変化させることにより、抽出されてくる物質も異なるので、目的物質を効率的に抽出することができます。

●精油の成分について
 このようにして採取した精油の構成成分は、ほとんどがテルペン類であります。テルペン類とはイソプレン(C58)単位2個以上が鎖状または環状に結合してできた化合物の総称です。この中でもイソプレンが2つ結合した物をモノテルペン、3つ結合した物をセスキテルペン、4つ結合した物をジテルペンと呼んでいます。

○枝葉の精油
 スギの枝葉から得られる量は季節にもよりますが、およそ3ml/100g前後です。
 構成成分は、蒸留初期にはモノテルペンであるα-ピネン、サビネン、リモネンなどが多く含まれ、蒸留後期にはβ-エレモール、γ-オイデスモール、δ-カジネンなどのセスキテルペンとジテルペンの16-カウレンの割合が高くなります(図−2)。

○材部の精油
 一方、材部では心材と辺材で得られる精油の量に大きな差があり、心材の方が多く採取できます(図−3)。

 心材を水蒸気蒸留したときに得られる精油の大半がセスキテルペンで構成されており、δ-カジネンの割合が高くなっています。これに対し、熱水蒸留で得られる精油にはセスキテルペンの他にフェルギノールやサンダラコピマリノールなどのジテルペンも抽出されてきます(図−4)。

●おわりに
 今回の試験結果から、枝葉からは蒸留初期にはモノテルペン類、後期にはセスキテルペン類が多く含まれてきていることが分かりました。また、材から得られた精油のほとんどがセスキテルペン類でありその成分は蒸留法によっても差があることがわかりました。今後、その精油成分の利用及び抽出残渣の利用についても試験を行っていく予定です。


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