軸組住宅の耐震技術


(林産研究部)富田 守泰



◆はじめに
 阪神・淡路大震災以後、在来軸組構法による住宅の耐震性能向上の動きが急になってきました。その動きには二つの流れがあります。その一つは接合部を鉄骨組のように金属で固定する方法で、もう一つはパネルにより固くする方法です。今後は建築基準法が仕様規定から性能規定へ移行する中、軸組構法もその性能が数字で問われています(図−1)。
 そこで気になるのが県産材製品の利用です。金物で鉄骨のように組み込む住宅部材に国産材製品の必然性があるのでしょうか。事実これらの住宅はすべて外材集成材を使用しています。地域の木材を使って地域で施工する住宅にとって必要なのは、開発力のある大手メーカーの金物工法ではなく、開発余力はないが技術力のある中小工務店における大工の手の内の技術で確保する耐震技術ではないでしょうか。

図−1 耐震向上の事例

◆県産材、大工技術、土壁
 振り返って地元工務店の特徴を見てみると、「匠の技術によって東濃ヒノキや長良スギなどの県産材を使った土壁づくりの100年健康住宅」というキャッチフレーズとなるのでしょうか。つまりこの地域の住宅の特徴は、県産材と土と技術により、長持ちする住環境を提供していくことです。  そこで、土を使った真壁造り住宅の耐震性能を向上させる技術を掘り起こすことをめざして、身近な木の素材で建築できる研究を進めています。

◆求められる開発とは
 その一つが面に頼らず軸で対応する方法です。土壁は現在あまり耐力要素とは評価されていません。これは現場施工で性能のバラツキが多いからとも思われます。土の真壁では壁厚が限られてくるため、図−2に示すように筋かいを片方向のみ入れる片筋かいとなります。しかも片筋かいは対で入れるとはいうものの、図−3に示す様に実際はその間が広い場合が多い。そこで引っ張りにも耐える筋かいを入れる必要があります。筋かいの性能は、圧縮に対しては柱と土台の引き抜き耐力、引っ張りに対しては筋かい端部の引っ張り強度によることになります。
 そこで、金物を用いず身近な木材によって、柱と土台との引き抜き耐力及び筋かい端部の引き抜き耐力の強い工法を開発しました。

図−2 真壁の断面図−3 開口部の片筋かい事例と筋かいの応力

◆引き抜き防止に込み栓
 筋かいを使用しても地震で倒壊した原因の一つは柱と土台や胴差の間の引き抜きでした。柱には自重が架かってはいるものの、それ以上の引き抜き力が生じて倒壊しています(図−4左上)。そこで一般には、ほぞ接合部を補助金物であるT字のかど金物やV字の山形プレートで補強しています。これを長ホゾと込み栓で接合してみました。込み栓は、ナラやカシ等の堅木で作る自家製の角栓やドリルで穴開けできる市販の丸込み栓があります。
 強度の比較では、込み栓一本でも金物と遜色ないほどの結果となりました。ただ込み栓はホゾのせん断による脆い破壊を生じることがあります。芯を含む柱では一番脆弱な樹心部に込み栓が打ち込まれるため、ホゾ幅を広げて込み栓を二本としたり、ホゾの余長を長くとれば粘り強くなります。

図−4 筋かいの問題点とその対策

◆筋かい止めは新たな工夫で
 金物を使わず筋かいの引き抜き防止をすることはことのほか困難です。しかも柱と梁だけで上棟し、後から筋かいをあてがう従来の建て方は合理的で、この方式のまま工夫する必要があります。そこで図−5のような構造用合板のプレートを考案しました。溝は貫穴加工に使う傾斜型のチェーンノミで比較的簡単に加工でき、上棟後に図−6のように差し込めば上部への引き抜きに対応できることになります。プレートと筋かい間はボルト二本で留めますが、厚い筋かいにプレートを挟み込めば木製で全てできます。また引き抜き傾斜が問題ですが、ボルト二本の場合、柱間が半間から一間までで、十分な強度(許容耐力値)が確かめられました(図−4右下)。

図−5 木製プレート概要図−6 プレート挿入方法

◆壁倍率での評価
 現在、構造壁の性能は壁倍率で求めています。そこで、これらの接合性能を壁倍率で評価して、取りまとめ中です。今後は関係業界の方に安心して使っていただけるよう普及できる形で報告したいと思います。


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