ウコギ科の薬用樹木

(森林科学研究所)坂井至通


●はじめに
 ウコギ科の植物は、日本には10属12種が生育しています。
 ウコギ(図−1)は中国原産の植物で、最初は薬用として日本に持ち込まれました。庭や生け垣に植えられ、時には薮地、山林、川岸などに野生化しています。古くは平安時代の「延喜式」に、ウコギの皮(樹皮、根皮)が朝廷に献上された記述があり、美濃国は産地のひとつでした。


図−1 ウコギの果枝
【樹木大図説III(上原敬二著、有明書房)】

 ウコギに限らずコシアブラ、タラノキ、ハリギリ、ウドなどのウコギ科植物(図−2)は、いずれも新芽や若葉を天ぷらや揚げ物、煮物にします。特に新芽は香気とやや苦みがあり、熱湯でゆでてあくを抜きゴマや酢味噌であえると美味しくいただけます。ゆでたものにうすく塩味を付けてご飯と混ぜ、ウコギ飯にすると季節を感じさせます。ウシ、シカ、クマ、ウサギなどの動物も好んでウコギ科植物の葉や樹皮を食べるといわれます。


図−2 ハリギリの新梢とタラノキの新芽
【樹木大図説III(上原敬二著、有明書房)】

 ウコギ科の高木ハリギリは桐の代材に使いましたし、カミヤツデの髄からは紙を、タカノツメからは箸、楊枝、マッチ軸木などを作りました。コシアブラからは樹脂を採り、濾してウルシに似た塗料(金漆=こんぜつ)として利用してきました。

●民間薬、漢方薬での利用
 ウコギや日本原産のヤマウコギは果実と樹皮を薬用酒にして使います。タラノキは強壮強精、精神安定薬、胃腸薬などに用いられ、根を煎じたものをタラ根湯として糖尿病の民間薬として今でも使われます。タラノキの茎にある棘は煎じて高血圧に、葉は健胃整腸薬として使われていました。ヤツデの葉は煎じて去痰薬とし、浴湯に入れてリュウマチの痛み取りとしました。
 最近の研究ではハリギリの根から薬用人参と同じ成分(ギンセノシド)が含まれていることが明らかにされ、健康食材としての注目が高まっています。
 ウコギ科植物で有名な薬用植物にオタネニンジンがあります。中国東北部から朝鮮が原産地の草本植物で薬用人参、朝鮮人参、高麗人参ともいいます。享保年間に(1716〜1735)、朝鮮から種子(御種)を取り寄せ、幕府の御薬園で栽培を始めたことから御種人参の名があります。一方で、日本原産の薬用人参にトチバニンジンがあります。実は「栃の葉」に似て、地下部は「竹の節状」になりチクセツニンジンともいわれます(図−3)。この根は生薬問屋で、高額で売られ、岐阜県の山中にも自生しているので特用林産物として利用できます。


図−3 オタネニンジンとトチバニンジンの根茎の形状

●栽培品として有望なエゾウコギ
 エゾウコギは、ウコギ科の薬用樹木で、シベリア、中国東北部、朝鮮半島、北海道東部など寒冷地の限られた地域に自生しています。成長するまで十年以上を必要とし、乱獲による資源の枯渇が危惧されています。
 中国ではエゾウコギを「免疫力を高め、長い間服用すれば老化防止に効果がある」とか、「毒性や副作用が少なく長く服用して効果があるすばらしい薬」として知られてきました。最近では、「刺五加片」というエゾウコギの錠剤が大変人気となり、需要量拡大が起こりました。そこで中国政府は「使い過ぎ・作り過ぎ・品質低下」を防ぐ目的で、2000年まで黒竜江省以外の製薬工場での製造を制限しました。日本でもエゾウコギ粉のティーバッグ、エキス顆粒、濃縮エキスなどが保健栄養剤として市販されるようになりました。


図−4 エゾウコギの効果
【エゾウコギ驚異の効用(チェフンチェン著、池田書店、イラスト松本裕司)】

●おわりに
 「五加」の唐音読みの「ウコ」と「木」が組み合わさり「ウコギ」となりました。ウコギ科植物の樹皮は滋養、強壮、強精、糖尿病などの妙薬として期待されています。「五加皮酒」などの薬用酒に使われ、また若芽や葉は、独特の香りと味から食材として珍重されています。食生活が豊かになった現代においても、ウコギ科植物には日本の伝統的食文化や民間薬を担う貴重な樹木が多く見られます。


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