天然更新を計画するときの留意点
〜競合植物に気をつけましょう〜

(岐阜県森林研究所) 久田 善純



【はじめに】

森林の更新方法のひとつに天然更新(※1)があります。

この方法を適用するときは、林床の植生や土壌の状態、種子の供給源となる母樹との位置関係、獣害の有無など様々な点を考慮し、実施箇所に適しているかを、慎重に判断しないといけません。

ここでは、天然更新を妨げる「競合植物」に関する留意点について、県内の試験事例を踏まえて紹介します。


【ヒノキ林の皆伐後に天然更新の試験を行いました】

郡上市にある約50年生のヒノキ人工林において、H23年春に皆伐と前生樹(下層木)の刈り払いを行い、跡地への樹木の侵入状況を調査しました。

また、皆伐前と、皆伐後5年半経過時(H28年秋)の、地上高1.2m(胸高)以上の樹幹数を調査しました。なお、樹幹数は、ひとつの個体(株)から複数本の幹が出ていた場合、それぞれを1本として計上しました。


【シロモジとヒサカキの萌芽が高木性種と競合しました】

皆伐後5年半経過時の高木性種の個体数は13,000本/ha以上ありました。しかし、低木性種のシロモジ・ヒサカキと競合したことが原因で樹高成長が抑えられ、岐阜県の天然更新完了基準(※2)を満たす高木性種の個体数は、1,875本/haに留まり、更新完了とみなせませんでした。

シロモジとヒサカキは前生樹として存在し、皆伐前の樹幹数の合計は約5,600本/haでしたが、皆伐後5年半経過時には、皆伐前の6倍近い約32,000本/haに増加しました。このうち萌芽由来の樹幹数は約30,000本/haあり、林地全体の樹幹数の約8割を占めていました(図)。

皆伐と同時に行った刈り払いにより、この2樹種の萌芽成長が促進され(写真)、高木性種との競合に勝ったと考えられます。


【天然更新計画時の留意点】

前生樹のなかに萌芽力が強い低木性の競合種が存在する場合、それらの萌芽によって高木性種が被圧される恐れがあるため、更新期間中に「刈り出し(※3)」を計画する必要があります。

なお、天然更新は、高木性種等の判別と更新状況を判断する知識を活用し、状況に応じた施業が求められる方法です。森林の更新を計画するときには、人工造林も選択肢に入れて、確実な更新方法を選んでください。

(※1)天然更新:自然に落下した種子から発芽した稚樹や、伐根からの萌芽を成長させて、森林を更新する方法です。

(※2)天然更新完了基準:「更新樹種は高木性種であること」、「更新樹種が高さ50cm以上かつ競合植物の高さ以上をもって3,000本/ha以上成立すること」と定められています。

(※3)刈り出し:更新樹種(高木性種)を被圧している周囲の競合植物を刈り払う作業です。

  
写真.萌芽により繁茂したシロモジの様子 図.皆伐後5年半経過時の樹幹数(胸高以上)
写真.萌芽により繁茂したシロモジの様子 図.皆伐後5年半経過時の樹幹数(胸高以上)