ツリーシェルターの耐雪性 U
―緩傾斜地(傾斜15°未満)での事例―

(岐阜県森林研究所) 岡本 卓也



○はじめに

ニホンジカなどによる植栽木の枝葉の採食は,植栽木の成長や形状に大きな影響を及ぼします(図1)。その対策として植栽木に薬剤を塗布する方法や,植栽木を保護資材(ツリーシェルター)で覆う方法などがあります。

ツリーシェルターは,物理的に植栽木を保護し,高い採食防止効果があります。しかし欠点として,積雪により鉛直下方向に押しつぶされて変形し採食防止効果が発揮できなくなったり,植栽木と共に倒伏し植栽木に損傷を与えたりすることがあります(図2)。そのため,ツリーシェルターにより採食対策を実施するには,積雪量などの条件を考慮に入れ,使用する資材を慎重に選択する必要があります。

前回(森林のたより740号)は,傾斜30°のスギ林におけるツリーシェルターの耐雪性(積雪で破損したり倒れたりしないかどうか)を報告しました。

今回は,緩傾斜地に設置したツリーシェルターの耐雪性についての試験結果を報告します。

  
図1.採食され矮小(盆栽)化したヒノキ 図2.倒伏したツリーシェルターと苗木(矢印)
図1.採食され矮小(盆栽)化したヒノキ 図2.倒伏したツリーシェルターと苗木(矢印)

○試験条件

試験に用いたのは,前回の試験で耐雪性の高かった市販の六角柱型ツリーシェルターです(図3)。このツリーシェルターは,支柱の強度が高いため曲がりにくく,ツリーシェルター本体に自立性があり,かつ表面が平滑という特徴があります。

樹下植栽を想定し,緩傾斜地の50年生スギ林内に高さ140cmの六角柱型ツリーシェルター20本を設置し,融雪後の破損や倒伏の状況を目視調査により確認しました。林内の積雪の推移については,積雪深計により把握しました。

  
図3.試験資材
図3.試験資材

○融雪後の資材状況

積雪期間中の最深積雪深は110cmで,資材高である140cmを越えることは一度もありませんでした。

目視調査の結果,明らかな破損や,積雪により傾いた形跡は,すべてのツリーシェルターで確認されませんでした。この結果から,110cm程度の積雪のある緩傾斜地の森林では,積雪期間を通してツリーシェルターが使用できるものと考えられました。

  
図4.融雪後の資材状況
図4.融雪後の資材状況

○おわりに

前回の結果とあわせ,樹下植栽を想定したスギ林において,緩傾斜地では110cm程度,傾斜30°では150cm程度の積雪条件であれば,六角柱型ツリーシェルターが年間を通して使用できる可能性があることがわかりました。

今後は調査事例を増やし,新植地を想定した上層木がない環境や,複数年にわたる破損状況など,様々な条件下での調査を行い,ツリーシェルターが年間を通して使用できる条件について明らかにしたいと考えています。