多雪地で混交林化を考える

(岐阜県森林研究所) 渡邉仁志



拡大しすぎた針葉樹人工林に対し、林業に適していない森林(多雪地、高標高地など)の針広混交林化が指向されています。そのための対策には強度間伐などが想定され、施業の結果、広葉樹が「自然に」定着すること(天然更新)が期待されています。しかし、このシナリオには天然更新の可否に加え、光条件の管理や、環境が厳しい地域における阻害要因の軽減対策など、クリアすべき課題が多そうです。

これまでに行った間伐後の下層植生の動態高木性樹種の動態に関する調査から、天然更新のハードルは意外と高いことが分かりました。ここでは、多雪地域における針広混交林化の一手法として、広葉樹の植栽を考えてみました。


広葉樹が受けた被害と成長

郡上市大和町の約50年生スギ林(平坦地・最深積雪250cm)で強度間伐(材積率52%)を行った「間伐区」と冠雪害跡地(面積135u)に設けた「ギャップ区」に、ミズナラ、ホオノキ、ミズキを植栽し、四年間の成長と発生した被害を調査しました。すると、植栽年の冬から雪圧による幹折れ(写真)が発生し、その割合は年々増加しました。その結果、枯死木の割合は高くなり、特に間伐区のホオノキとミズキでは顕著でした。

植栽木のうちミズナラとミズキの樹高成長(相対値)は、ギャップ区の方が大きい傾向がありました(図)。しかし、ギャップ区の成長も既存の報告ほどは、よくありませんでした。

写真 雪圧により折損したホオノキ
雪圧により折損したホオノキ
図 植栽木の樹高成長経過
0年は植栽時の、それ以外は各年数が経過した後の樹高を示す
植栽木の樹高成長経過

植栽木の成長に影響する要因

植栽木の枯死や樹高成長に負の影響を与えている要因を検証すると、林内が暗いこと、植栽木が雪圧害を受けたことのふたつであることが分かりました。このうち、調査地の光条件(相対値)は、間伐区で8%、ギャップ区で23%でした。この数値を広葉樹が成長する条件と照らし合わせると、少なくともギャップ区は、広葉樹の成長にとって十分な明るさだったことが分かりました。このことから、ギャップ区の植栽木の成長が鈍かった理由は、植栽木の多くが雪圧害を受けたからだと推測されました。

このように、多雪地では雪圧害が樹木の成長を妨げていますが、樹木が小さい間の雪圧を避けることは困難です。つまり、ふたつの阻害要因のうち、われわれがコントロールできるのは光条件だけです。光条件がよくなれば、樹木の成長は促進され、早く大きく(高く、太く)なれば、雪圧による幹折れが少なくなります。

これまでの調査結果から、針広混交林を目指すためには、光条件の点から強度間伐では十分でなく、少なくとも群状伐採や小面積皆伐により、積極的に林床を明るくすることが必要だと考えられます。また、広葉樹は種によって耐陰性や萌芽しやすさが異なるため、特性にあわせたきめの細かい管理が求められます