大発生したマイマイガはその後どうなった?

(岐阜県森林研究所) 大橋 章博



はじめに

平成25年、26年と大発生し、大きな問題となったマイマイガですが、今年は全く話題にも上りませんでした。その後、一体どうなってしまったのでしょうか。

県北部は流行病で終息

平成26年夏、大発生したマイマイガ幼虫の暴食によって、山の木々が各地で丸坊主になりました。ちょうどその頃、マイマイガにも異変が起きていました。流行病が発生したのです。

その発生状況を調べるため、平成26年6月から7月にかけて、17箇所で調査を行いました。具体的には、樹幹や枝に死亡幼虫が付着しているかを調べ、もし見つかれば、1箇所から30頭の死亡幼虫を持ち帰り、後日、死亡虫の体内を調べて、疫病菌や核多角体ウイルスの有無を確認しました。

その結果、流行病は県北部では、大発生していましたが、県南部では全く確認できませんでした(図1)。

  
図1. 流行病の発生状況
図1. 流行病の発生状況

ネット上では、「飛騨山中でゾンビウイルスが大発生」と話題になりましたが、確認できた病気は、ほとんどがエントモファーガ・マイマイガという疫病菌(カビ)によるものでした(写真1)。

  
写真1. 疫病菌で死亡したマイマイガ幼虫
写真1. 疫病菌で死亡したマイマイガ幼虫

平成27年春、流行病が蔓延した地域ではマイマイガ幼虫を見ることはほとんどありませんでした。

県南部は?

一方、流行病が発生しなかった岐阜市や関市、美濃市など県南部では前年と変わらず、多数の幼虫がみられました。今年も流行病の発生はみられなかったにもかかわらず、成虫の発生はほとんど確認できませんでした。この原因はなんなのでしょうか。

その答えはわかりませんが、少しだけヒントが見つかりました。

今年度はマイマイガの幼虫に混じってカシワマイマイの幼虫が多く見られました。この蛾は、マイマイガの近縁種で、東北地方ではマイマイガ同様、時折大発生することが知られています。カシワマイマイの羽化を観察するため、蛹を数頭持ち帰りましたが、1頭も成虫になりませんでした。蛹から出てきたのは、寄生蜂と寄生蠅でした。このうち、寄生蜂はチャイロツヤヒラタヒメバチでした。本種はマイマイガにも寄生することが知られています。

もう一つは、コマユバチの一種に寄生された幼虫(写真2)がいろんな場所で観察されたことです。

  
写真2. コマユバチの一種の繭と死亡したマイマイガ幼虫
写真2. コマユバチの一種の繭と死亡したマイマイガ幼虫

これらのことから、県南部におけるマイマイガの終息は、寄生蜂や寄生蠅などの天敵昆虫によるのではないかと考えられました。


おわりに

今回の大発生は2年で終息しました。ですが、これであとしばらくは大丈夫と安心してもいられません。マイマイガは10年周期で大発生すると言われていますが、これは100年間に10回大発生が起きていたことから生まれた誤解です。実際にはマイマイガの大発生には決まった周期はなく、その間隔は短いもので3年、長いものは13年とバラバラです。次にいつ大発生が起こるかはわからないのです。

研究所ではフェロモンを使ってマイマイガの発生を簡易にモニタリングできるトラップの開発に取り組んでいます。これを使って大発生の予兆を察知し、交信かく乱すること(本誌735号参照)により、大発生を抑えることができるよう研究を進めていきます。