スギの下刈り軽減を考える
〜下呂実験林の調査データから〜

(岐阜県森林研究所) 渡邉仁志



造林・育林にかかる経費のうち、下刈りが占める割合は4割に達するといわれています。つまり、下刈りの軽減は、林業全体の省力・低コスト化への第一歩です。下刈り軽減の方法はいくつかあります。たとえば、低密度植栽と部分刈りを組み合わせて面積を減らしたり、品種選定や施肥により植栽木の初期成長を早めて期間を短縮することなどが挙げられます。

下呂実験林内にある適地適木実験林では、立地(土壌型)が異なる試験地への施肥(※)が続けられ、主要造林樹種の成長が調査されました。ここでは、乾性土壌(BB型)と適潤性土壌(BD型)の試験区を例に、施肥によるスギ林の下刈り軽減の可能性について考えてみます。

(※)施肥区において植栽から7年間(年1回)、緩効性の化成肥料(窒素換算量:15〜20g)を植栽木の根元に施用しました。


はじめに適地適木ありき

無施肥区における樹高は、乾性土壌区よりも適潤性土壌区の方が常に高く、その樹高差は年々大きくなる傾向がありました(図)。7年目、適潤性土壌区の樹高(5.4m)は、乾性土壌区(2.6m)の樹高の2倍以上(図中a)になりました。

施肥区では、土地生産力の向上により、植栽木の成長が促進されます。乾性土壌はやせているため、向上の余地は特に大きく、施肥効果(ここでは樹高差、図中b)は適潤性土壌区(図中c)より大きいといえます。しかし、施肥により生産力が上がっても、乾性土壌区の樹高は依然、スギの適地である適潤性土壌区には及びませんでした(図中d)。

これらのことは、スギを乾性土壌に植えると、より長期間の下刈りが必要になることを示します。つまり、林業の省力・低コスト化の点からも適地適木の重要性が再認識できます。

図 各土壌型における施肥の有無別の樹高成長過程
図中のアルファベットは、本文中の記載を参照
各土壌型における施肥の有無別の樹高成長過程

施肥による下刈り軽減

適潤性土壌において、施肥による下刈り軽減効果を考えてみます。植栽木の樹高が3mになった(雑草木よりも1m高くなった)ときを下刈り終了時期とすると、施肥区では約4年、無施肥区では約5年かかっています(図)。施肥によって下刈り期間は4年間となり、施肥をしない場合と比べて一年間の下刈り作業が軽減できると考えられました。

実際の植栽地で実施する場合には、施肥による作業量やコストの増大を考慮する必要があります。また、林地全面に肥料をばらまいて雑草木の成長まで促進してしまった事例もあるため、施肥の適量や回数、方法を検討することも重要です。さらに、下刈り期間内における下刈り回数の低減や方法の工夫などと組み合わせることが大切です。


おわりに

下刈り省略は省力化につながる一方、植栽木が被圧され続けることによる形質悪化や、施肥による成長促進(年輪幅の拡大)が材質低下に及ぼす影響も看過できません。このように、品種や植栽密度の選択と同様、やはりここにもメリット、デメリットがあります。

これまで3号にわたって造林・育林作業における省力・低コスト化について考えてきました。しかし、低コスト林業は、最終目的ではありません。はじめにどんな森林づくり(木材生産)をしたいのかしっかりと考えて、投入できるコストや労力を考慮しながら、目的にあった方法を選択し、実行することが大切です。