埋土種子から当年生実生が予測できるか

(岐阜県森林研究所) 田中伸治



はじめに

近年、人工林の伐採後の更新方法として、天然更新が検討されています。しかし、天然更新では、森林が成立しない場所があります。では、伐採前に、天然更新の成否を予測する方法はないでしょうか。森林研究所では、伐採前に土壌中にある埋土種子と伐採後の後継樹木に直結する当年生実生を調査することにより、埋土種子から当年生実生を予測できるのか検討してきました。

埋土種子と当年生実生

埋土種子とは、土壌中で長期間休眠し、伐採などにより温度や光環境が変化したことをきっかけに発芽する種子のことです。当年生実生とは、伐採後、1年以内に発芽した芽生えのことです。

埋土種子と当年生実生はどのくらいあるか

岐阜県内の伐採直後の調査地(11箇所)において、埋土種子と当年生実生の調査を行いました。調査地は、ヒノキ林が6箇所、スギ林が1箇所、スギ・ヒノキ林が4箇所でした。  埋土種子は、各調査地で、春に土壌を採取し、この土壌をプランターに移して、秋まで温室に置き、発芽した木本植物の種名と本数を記録する方法で調べました(写真1)。当年生実生は、埋土種子調査の土壌を採取した場所の近くに調査区を設け、夏から秋にかけて、調査区に発芽した木本植物の種名と本数を記録する方法で調べました(写真2)。  調査の結果、各調査地における埋土種子は、2〜8種、40〜375個/uで、ヒサカキがすべての調査地で確認されました。当年生実生は、5〜16種、1.7〜38.0本/uで、ヒノキがすべての調査地で確認されました。

  
写真1 埋土種子調査 写真2 当年性実生調査
写真1 埋土種子調査 写真2 当年性実生調査


埋土種子から当年生実生を予測できるか

全調査地の半数以上(6箇所以上)で確認された埋土種子は、ヒノキ、ヒサカキ、リョウブでした。また、同じ調査地内で埋土種子と同じ樹種の当年生実生が確認された割合は、ヒノキが100%(8箇所中8箇所)、ヒサカキが91%(11箇所中10箇所)、リョウブが67%(6箇所中4箇所)と高い割合でした(表1)。  このことから、ヒノキとヒサカキとリョウブは、埋土種子があれば、当年生実生の発生を予測できると考えられます。  この3樹種のうち、ヒサカキとリョウブは成長しても樹高は10m以下なので、将来林冠を構成することは期待できませんが、ヒノキは樹高20m以上の高木になりますので、今後生育が順調に進めば、将来林冠を構成することが期待できます。

表1 樹種別の埋土種子と当年性実生の確認状況
樹種別の埋土種子と当年性実生の確認状況