ナラ枯れの被害跡地はどうなるのか?

(岐阜県森林研究所) 大洞智宏



はじめに

本誌には、何度かナラ枯れに関する話題が掲載されてきました。最近では、1月号にナラ枯れ被害木の薪としての利用法が紹介されました。実際に、ナラ枯れの被害地に行ってみると薪にするにはもったいないほどの大きな木が被害を受けて枯れています。

ナラ枯れによって、木が枯れて葉が落ちると、林に大きな穴が開いたようになります。この穴は、林冠ギャップ(以下ギャップ)とよばれています。ギャップ下では、光が地表面まで届きやすくなり、もともと生えていた植物の成長が旺盛になることや、新たな芽生えが大きく成長することが期待されます。

しかし、集団的にナラが枯れた場所では、ギャップの面積が大きくなるため、ギャップ内に樹高が高くならない樹種しかない場合や、ササの繁茂の状態によっては、いつまでたってもギャップがふさがらず、森林の公益的機能(風致、防災など)が低下する可能性があります。

  
写真1 枯れたばかりのナラ 写真2 ナラ枯れによってできたギャップ
写真1 枯れたばかりのナラ 写真2 ナラ枯れによってできたギャップ


ナラは再び大きくなるのか?

では、ナラが枯れた所に再びナラが生えてくるのでしょうか。 調査をした場所の約半数でナラの稚樹を見つけることができました。しかし、小さいものが多く、数も少なく、さらには他の植物によって光を遮られている状況が多くみられました。このことから、順調にナラが大きく成長する場所は多くないと考えています。

何が生えているのか?

被害跡地に生育している樹木を調査してみると、既に将来ギャップを埋めると予想できる、ある程度成長した木(ブナ、コハウチワカエデなど)が存在する場所がありました。しかし、全体としては、樹高が高くならない樹種(クロモジ、シロモジ、マンサクなど)に覆われている場所が多いことがわかりました。このような場所では薮のような状態がしばらく続くと考えられました。しかし、場所によっては薮の中に樹高が高くなる木の幼木が存在する場合があり、それらが生存競争に勝つか、刈り出しなどの補助作業を行えばうまく成長できる可能性があると考えられました。

写真3 ギャップ下のナラの実生
写真3 ギャップ下のナラの実生

被害跡地はどうなる?

調査の結果から、被害跡地の植生には様々なパターンがあることが分かりました。一概にナラ枯れの被害跡地の将来を予測するのは難しいですが、一つ一つの現地をみれば、各々の場所がどうなるかはある程度予測できると思います。 被害跡地の公益的機能に大きな問題が予想される場合には、人の手を加えることによって、被害跡地の状況をコントロールすることは可能だと考えています。