線虫でナラ枯れを防ぐ

(岐阜県森林研究所) 大橋章博



猛暑の影響も手伝って、今年のナラ枯れ被害は拡大し、被害量も増加しそうな勢いです(図1)。

被害の拡大を防ぐには、病原菌を伝播するカシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)を駆除することが非常に重要です。現在、県下で最もよく行われている駆除法は、NCS剤を使った立木型くん蒸処理です。

しかし、この方法には大きな問題があります。それは、駆除できるカシナガがせいぜい地上高2mまでの範囲に限られることです。直径が30cmに満たないような木の場合、木全体のカシナガを8割以上殺虫することができますが、大きな木では、駆除できるカシナガは4割にも満たないことがわかります(図2)。

そこで、より簡単に木全体のカシナガを殺虫する防除法が開発できないか考えてみました。



ナラ枯れ被害発生状況(2010) 高さ別のカシナガ穿孔数
図1 ナラ枯れ被害発生状況(2010) 図2 高さ別のカシナガ穿孔数


【昆虫に寄生する線虫】

そんな中、注目したのは、昆虫寄生性線虫(以下、線虫)でした。

線虫には他の天敵微生物にはない優れた特徴を持っています。それが宿主探査能力です。宿主探査能力とは、ターゲットとなる昆虫を自ら探して、自分で移動するという能力です。線虫は昆虫の口などから体内に侵入すると、共生細菌を放ちます。すると昆虫は細菌によって敗血症を起こし死亡します。

この能力を利用して、線虫を枯死木に処理してやれば、線虫がカシナガを探し、殺虫、増殖、を繰り返すことで、木の上部に生息するカシナガも殺してくれ、被害抑制効果が期待できます。



【野外でも効果を確認】

室内試験でこの線虫がカシナガ幼虫に高い殺虫力を持つこと確認した後、野外試験に臨みました。試験は、枯死木の幹に直径10mm、深さ数cmの穴を10個空け、そこに線虫を1本当たり2500万頭注入しました。その後、その木を伐倒し、翌夏に切株からカシナガが何頭出てくるかを調べることで、防除効果を比較しました。その結果、無処理木からは約3300頭脱出したのに対し、線虫処理木からは約115頭と大幅に抑えることができました(図3)。

今回の結果から、昆虫寄生性線虫がカシナガの防除に有望な資材であることが判りました。森林公園のように化学農薬の使用を避けたい場所や、逆に、奥山のように人の出入りがなく、危険防止のために被害木を伐倒する必要がない場所では適した防除法になると期待されます。

処理木からのカシナガ脱出消長
図3 処理木からのカシナガ脱出消長



【今後の課題】

ただし、実用化に向けてはいくつかの課題も見えてきました。例えば、線虫が樹幹の上部へ移動し、殺虫したか、と言う点については今回の試験では確認できていません。また、より効率的に線虫を木の中に導入する方法についても検討していく必要があります。こうした課題については、既に試験を実施しており、その結果が判り次第、この紙面で紹介したいと思っています。