路網開設による濁水の流出を防ぐために

(岐阜県森林研究所) 臼田 寿生



はじめに

現在、県内各地で林業の低コスト化のための路網整備が積極的に進められています。路網を開設する際の林地の保全については、各種指針書などが充実化しつつあり、十分な配慮が多くの現場で見られます。しかし、路網からの濁水の流出については、雨天時にしか発生しないケースがあるためか、気づかないうちに取水関係者などへ被害が及んでいることがあるようです。そこで、今回は森林研で行っている濁水流出の実態調査の方法およびこれまでの調査結果から明らかになってきた傾向についてご紹介します。

濁りの程度を把握する方法は?

川の濁りは、主に「懸濁物質」と呼ばれる2mm以下の水に溶けない物質が水中に混ざることで発生します。路網開設地では「砂」、「シルト」、「粘土」が懸濁物質の主な成分となります。これらの粒子が多くを占める土質の現場では、濁水が発生しやすいと考えられます。  濁りの程度を把握する方法は、様々な方法がありますが、森林研では専用の機器(写真1)で比較的簡易に測定できる「濁度」という指標を用いて調査しています。

写真1 濁度計
写真1 濁度計

視覚的な参考として250度と40度の濁水の状態を写真2に示します

写真2 濁度の目安
写真2 濁度の目安

透明な容器に入れた状態では、比較的透き通っているように見えても実際に測定してみると予想以上の大きな値を示すことに驚きます。


路網開設地の濁度基準値は?

路網開設地における濁度の許容値をいくつにするかはなかなか難しい問題ですが、路網を開設していない流域であっても一般的に雨が降れば川の濁度は上昇することから「路網開設前の濁度」が一つの目安になると考えます。このため、路網を開設する前から事業地付近の川の濁度を把握しておくことが重要です。なお、下流部で水道水の取水をしている箇所では取水施設の管理者が濁度の基準を定めている場合がありますので、それらの基準値にも留意する必要があります。県内の参考値としては、濁度が20度に達すると取水を停止するよう定めている箇所があります。  濁水の調査を実施する場合には、具体的な方法や濁度の測定などについて、森林研が相談に応じますのでお気軽にお問い合わせください。

濁水の実態調査からわかったこと

現在、森林研では、県内の路網開設地における濁水流出の実態を調査し、濁水流出を抑制するための路網開設技術の開発について取り組んでいます。これまでの調査結果から、次の傾向が明らかになりました。

・事業実施中には路網開設地(既 設未舗装林道を含む)の直下では 濁度が大きくなりやすいが、その50〜100m下流では濁度が大きく低下する。
・路面水が適切に処理されている 場合には事業完了後の濁度が事業着手前と同程度となる(図1)。

図1 事業地下流における同程度降雨時の平均濁度
図1 事業地下流における同程度降雨時の平均濁度

ただし、これらの傾向は一部地域の限られた条件により導き出されたものであるため、データの蓄積による精度の向上が必要です。今後とも調査へのご協力をお願いします。