簡単に「間伐手遅れ林」とは言わないで

(岐阜県森林研究所) 横井秀一



【間伐手遅れ林】

最近、「間伐手遅れ林」という言葉をよく見聞きします。間伐が行われず、過密な状態が長く続いたために、枝が枯れ上がったヒョロヒョロの木ばかりになった林(写真1)を指す言葉です。この状態が様々な森林機能の発揮に良くないことは、誰の目にも明らかです。そのため、「間伐手遅れ林の間伐を進めよう」が合い言葉のようになっています。

しかし、これはおかしなことです。「手遅れ」というのは、もう何をしてもダメな、いうなれば医者がさじを投げざるを得ないような状態のことです。良くなる見込みがないのに間伐する、こんなことはあり得ないでしょう。本当に「間伐手遅れ」なら、間伐に変わる何か別の対処が必要です。「手遅れ」かどうかの判断は、とても重要なことなのです。

写真1 過密状態にあるスギ林
過密状態にあるスギ林

【本当の「手遅れ」とは】

間伐をしていない人工林の木がヒョロヒョロになるのは、枝が枯れ上がって樹冠が小さい(着葉量が少ない)ことが原因です。この状態を解消する林業技術が間伐です。すなわち、「間伐手遅れ」とは、間伐しても樹冠が大きくならない(着葉量が増えない)ことを意味します。

樹冠は、枝が伸びることで大きくなります。ただ、今ある枝が伸びるだけでは高が知れています。写真2を見れば、このことが感覚的にわかると思います。過密林では、枝の数が少なすぎるのです。そこで重要になるのは、大元になる枝の数が増える樹高成長です。

間伐すると枝の枯れ上がりを抑えられるので、その後は樹高成長した分だけ樹冠長が大きくなり、それだけ枝が増えます。したがって、間伐後に樹冠が大きくなれるかどうか―間伐手遅れでないかどうか―は、樹高成長にかかっているのです。樹木の樹高成長に頭打ちがあるなかで、どれだけ樹高の伸び代が残っているかが決め手になるわけです。


写真2 間伐直後のヒノキ林(元過密林分)
間伐直後のヒノキ林(元過密林分)

【「手遅れ」判定は将来の樹冠長で】

もう少し具体的に言うと、現在の枝下高と将来の樹高とで決まる将来の樹冠長が、目標とする幹直径を得るのに十分であれば、「間伐手遅れ」ではないということです。図1は、ヒノキ林の平均樹冠長と平均胸高直径の関係です。これより上側に点が来ないように引いた点線は、樹冠長に対する胸高直径の最大値です。例えば、胸高直径30pが目標なら、7.5m以上の樹冠長が期待できるときは、目標達成の可能性があるので間伐手遅れではありません。

図1 ヒノキ林の樹冠長と胸高直径の関係
ヒノキ林の樹冠長と胸高直径の関係

ただし、樹冠があまりにも小さいとき、間伐による直径成長の促進がどのくらい見込めるかを示すデータがまだありません。また、間伐をするとかえって気象害の危険性が高くなるために、手遅れと判断せざるをえない場合もあると考えられます。今、これらに関する調査を進めているところです。

「間伐手遅れ林」とは、絶望的な言葉です。手遅れかどうかの判断がきちんとできないうちは,使わないようにするのが無難だと思います。