おとり木法によるナラ枯れ被害の防除

(岐阜県森林研究所) 大橋 章博



今年の7月から8月上旬の降水量は平年の半分以下と少なく、ナラ枯れ被害は激しくなりそうな気配です。
 現在、ナラ枯れ被害に対して、様々な防除法が開発されており、防除が行われています。しかし、これらの防除法はいずれも単木的な手法です。広大な山でたくさんの木を対象に防除するのは、大変な労力が必要となります。また、急傾斜地や道から遠く離れた被害地では防除ができないといった問題がありました。そうした問題を解消するため、面的な防除手法の開発が強く求められています。
 そこで、今年度から、「おとり木法」による防除試験を始めましたので、その一部を紹介します。

【二つの新しい技術】

おとり木法には、最近開発された二つの新しい技術が取り入れられています。
 一つは、カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)の集合フェロモン(以下、フェロモン)です。カシナガは木に穿孔した際、フェロモンを出して仲間を集めます。これによって大量穿孔がおこります。このフェロモンの化学的構造が(独)森林総合研究所の研究チームによって明らかにされ、人工的に合成できるようになりました。
 もう一つは、樹幹注入剤です。ナラの木にあらかじめ殺菌剤を注入しておくことで、木が枯れないようにするものです。カシナガが穿孔しても、殺菌剤がラファエレア菌の伸長を防ぐことで、枯死を防ぎます。また、餌となる菌が繁殖できないので、カシナガも生育できません。

【おとり木法とは】

被害初期林分からナラ類を数十本選び、あらかじめ樹幹注入剤を注入し、処理木とします。この中からさらに数本を選び、おとり木とします。このおとり木には、合成フェロモンを取り付けるだけでなく、さらに木に傷をつけて誘引効果を高めます。こうしてカシナガを処理木に穿孔させることで、周辺地域に生息するカシナガをまとめて駆除しようというのが、この手法のアイデアです。

おとり木法による防除のイメージ
おとり木法による防除のイメージ

【その効果は・・・】

フェロモンを設置して数日後には、おとり木にカシナガの穿孔がみられました。その後、おとり木だけでなく、周辺の処理木にもカシナガの大量穿孔が見られましたが、枯死木は発生しませんでした。
 データはまだ収集中ですが、おとり木には約400孔/m2の穿入孔が見られたことから、カシナガを多数誘引できたと考えられます。また、当初、カシナガは合成フェロモンに誘引されましたが、次第に穿孔したカシナガが出す天然のフェロモンが加わることで、おとり木の周りの木にも穿孔がおこり、誘引効果が高くなったと考えられます。
 しかし、このカシナガがどれくらいの範囲から誘引されたかは明らかにできていません。
 今後の調査では、この点を明らかにして、面的な防除法となるよう研究を進めていく予定です。 

おとり木に付けた合成フェロモン剤
おとり木に付けた合成フェロモン剤