ハナノキの天然更新を促すために行った受光伐の効果

(岐阜県森林研究所) 横井 秀一



岐阜県東濃地域には、絶滅危惧種に指定されているハナノキが天然分布しています。しかし、どの自生地においても、ハナノキの後継樹はほとんど、あるいは、まったく見られません。ハナノキの存続は、危機的な状況にあるといえます。

森林研究所では、自生地にハナノキの後継樹を定着させる技術として、受光伐が有効かどうかを調べる試験を行っています。中津川市内のスギ・ヒノキ・ハナノキが混交する林に試験区を作り、スギとヒノキを少し伐採しました。前より明るくなった林床に、ハナノキが芽生えて、成長するかどうかを調べ始めて、3年目のシーズンを迎えました。

【種子の散布】

ハナノキの花は、3月下旬頃に咲きます。果実は5月中旬頃に熟して、落下します。地上に落ちた種子は、夏と冬を越し、翌春に発芽します。

まずは、この試験区に、どのくらいの種子が散布されるかをシードトラップによって調査しました(写真1)。2005〜2007年の散布種子数は、平方メートル当たり、157個、484個、129個でした。少ない年でも、かなりの数の種子が散布されているのがわかります。

写真1 シードトラップ。寒冷紗で作った袋で種子を捕らえて、数える。
写真1 シードトラップ。寒冷紗で作った袋で種子を捕らえて、数える。

【受光伐後1年目の芽生え】

2006年の5〜6月、受光伐後最初の芽生えが発生しました。予め作っておいた調査枠に発生した芽生えについて、1本1本を識別して(写真2)、高さを測ります。この年には、70%の調査枠で芽生えが発生しました。芽生えの密度は、平方メートル当たり1.6本でした。散布種子数に対する芽生えの発生率は、約1%でした。受光伐区の隣に受光伐をしていない区(放置区)を設置していますが、そこでの発生率も同じでした。

写真2 ハナノキの芽生え。番号テープの旗を立てて、個体を識別する。
写真2 ハナノキの芽生え。番号テープの旗を立てて、個体を識別する。

この年は、秋までに5回の調査をしました。生きている芽生えの数は、調査の度に減っていきました。病気によって本葉をなくす芽生えが多く、これが枯死の大きな要因であると考えられました。秋まで生き残った芽生えは、発生した芽生えの53%でした。生き残った芽生えも、弱っているものが多く、順調に成長した芽生えは、1本もありませんでした。放置区に発生した芽生えは、秋までに、すべて枯れてしまいました。

【2年目の様子】

受光伐区で前年の秋に生きていた芽生えは、冬の間に、約半分が枯れました。そして、2回目の夏を越し、秋まで生き残ったのは、最初に発生した数の6%でした。

この年には、平方メートル当たり3.7本の芽生えが新たに発生しました。前の年が豊作年だったので、発生数が多かったのでしょう。この年の芽生えは、秋までに66%が枯れました。

【受光伐の効果は?】

受光伐後1年目と2年目で、芽生えの発生率は、受光伐区と放置区で変わりませんでした。受光伐は、芽生えの発生には影響しないと考えられました。一方、芽生えの生存率は受光伐区と放置区で異なりました。受光伐は、芽生えの生存には効果があったといえるでしょう。

今のところ、受光伐区でも、後継樹が定着するまでには至っていません。先は、まだまだ長そうです。