情報機器を森林管理に活かす(5)
GPSを業務で使うために知っておきたい3つの基本知識 (前編)

(岐阜県立森林文化アカデミー) 竹島 喜芳



前回前々回とGPSの正しい使い方4つの鉄則についてお話してきました。あの4つの鉄則を守っていればいただければGPSの器械を正しく使うことはできます。ですが、GPSを業務で使うとなるともう少々覚えなければならないことがあります。

例えば、正しい車の操作は覚えただけで、街中を運転できません。それと同じようにGPSの使い方を覚えたからといっていきなり日々の業務で活用できるかと言えば、本当はそれだけでは物足らないのです。今後2回にわたり、そんな車で言えば交通ルールのような、GPSを使う上で知っておきたい3つの基本知識についてお話しします。

基本知識1 地球の形

2002年4月1日前後のニュースで【日本の緯度経度が変わる】という話があったのをご記憶の方も少なくないと思います。これはGPSの普及によって、明治以来作成してきた日本地図の作り方をその日から換えることにしたというもので、GPSを使う者にとっては、とても大きな出来事でした。今はその移行段階にありますので、いろいろ混乱することもあります。その混乱にGPSを使い始めた皆さんが巻き込まれないようにニュースの背景をご説明しますので、この事件を通してGPSの知識を深めていただきたいと思います。

一番重要な変化は、日本地図を作る際に考えてきた地球の形を変えたということです。それまでの日本地図は、日本の土地をなるべく正しく表現すればそれで問題ありませんでした。地球は極端なことを言えば、ジャガイモのように凸凹しています。この凸凹した表面に日本列島がのっています。この日本列島を紙の地図にしようと思うと、立体の凸凹を平面にしないといけません。ところが、凸凹の立体は平面に表現することはできません。そこで明治の初め、凸凹地球のうち、日本列島付近の凸凹になるべく近い形をした楕円を地球の形として使い、日本地図を作っていました。その楕円というのが「ベッセル楕円体」です。この楕円体は日本の地図を作るときには誠に歪の少ないものができるのですが、日本以外の国はこの楕円ではうまいこと近似できないため、各国では自国地図作成に都合の良い楕円体を使って地図を整備していました。ところが、GPSを使うようになると、各国が勝手に地球の形を決めていては不都合になるということで、国際的にどの国も均等な歪みとなるGRS80という名前の楕円体をつかって地図を作ろうということになりました。

ところで、WGS84という言葉を耳にする方もいるとおもいますが、それがややこしい。WGS84はアメリカがGPSを運用する際に考えている楕円です。一方、GRS80は国際機関が定義している楕円です。現在結果的に両者はほとんど同じということなので、GRS80とWGS84は同じものだと考えても実務上は差し支えありません。

要するに、ここで覚えていていただきたいのは、どうやら身の回りにある地図にはベッセル楕円体でつくられた地図とGRS80で作られた地図があるのだということです。

さらに、おまけで付け加えますと、2002年4月1日の【緯度経度が変わる】というのは地球の形を変えたということだけが原因ではありません。もう一つ大きく変わったことがあります。それは三角点の緯度経度が変わったということです。地球の形が変われば当然、三角点の緯度経度も変わるのだろう。なにが問題か?と思うかもしれません。でもそこにはちょっと深い背景があります。日本の地図は三角点をもとにして作っています。その日本地図を作るもとになっている各三角点の緯度経度は、明治の初めに東京天文台の緯度経度を天測(星の位置から地球の場所の緯度経度を知る方法)し、精密に測った値を原点にしています。その原点から延々と、北は北海道、南は九州まで幹線沿いに人力測量で三角点の背骨をまず一本通し(一等三角点)、次に、一等三角点から西に東に南に西に二等三角点・三等三角点を伸ばし、日本地図を作ってきました。ですので、いかに精密な測量を行ったとはいえ、人間が行うことです、誤差があります。しかも、その誤差は東京から離れれば離れるほど大きくなります。

しかし、GPSが登場する前は、そんなことは関係ありませんでした。なぜなら、誰も真実の三角点の緯度経度を知る方法がなかったからです。ところが、GPSが登場するようになると、非常に正確に緯度経度がわかるようになりました。これによりこれまで使ってきた三角点の値に誤差があることが明らかになったのです。それで、これではいかんといことで、GPSで改めて計測した緯度経度をもとに再度、各地の緯度経度を修正したということです。

そんな2つのわけ(地球の形の変化と明治からの三角点の歪みを除去)で2002年4月1日のニュース【日本の緯度経度が変わる】のようなことになったわけです。



今回は直接ITやGPSとは関係のないような話になってしまいましたが、次回でこのことがGPSを業務で使う上で知っておくべき基本知識だと実感していただけるようになるかと思います。あと1回どうぞお付き合いください。