県内森林地帯における酸性雨
−現状とこれから−

(岐阜県森林科学研究所)渡邉仁志


■はじめに

 今年も雨がしとしと降り続く季節になりました。降水の中でも、pH5.6以下の降雨や降下物を、酸性雨といいます。北欧では1970年代から、湖沼や土壌の酸性化、林木の枯損など、酸性雨の被害が問題になっていました。

 国内では昨年6月、環境省が「山県市伊自良湖の流入河川や周辺土壌のpHが低い」と公表しました(環境省ホームページ報道発表資料酸性雨対策調査総合とリまとめ報告書について(平成16年6月25日)」)。その影響がすぐに人の健康や地域生態系に及ぶことはありませんが、これを機に県内の降水と森林の現状や今後について考えてみようと思います。

■酸性雨の現状

 県下25箇所で6月中10日間の降水と森林土壌を、5年(1990〜1994年)に分けて調査しました。

 降水pHは、同じ期間の全国平均より低い傾向がありました。これは県内だけはなく、西南日本で広くみられる現象です。また県南部と県北部の降水を比べると、pHは南部でより低い傾向がありました(図参照)。

 美濃市内における通年観測(1ヶ月毎)によると、多くの月の降水pHが、酸性雨を示す値にありました。これらから、地域や時期で変動はあるものの、県内でも酸性雨が降っていることがわかります。

 一方、土壌pHは、全国平均より低い箇所が多く、また県南部で低い傾向がありました(図参照)。地質や土壌の性質から、県南部は土壌pHが低い地域だといわれています。このため、この原因を酸性雨だけの責任にするのは早計です。しかしながら、もともと土壌pHが低い地域に低pHの雨が降り、酸性物質が土壌中に負荷され続けている現状を認識しておく必要があります。

図 県内森林地域の降水pHと土壌pHの分布(1990〜1994)

■酸性雨が続いたら

 それでは、このまま土壌への酸負荷が続いたらどうなるのでしょうか。その答えを見いだすため、美濃市内のヒノキ人工林に酸性溶液(1年で10年分の酸負荷に相当する量)を10年間散布し、影響を調査しました(調査地外に影響しないよう水質調査をしながら慎重に行いました)。

 その結果、土壌は、初年度に酸性化しましたが、土壌のもつ酸緩衝能(酸を中和・消去する働き)により、それ以上の酸性化は進みませんでした。また現時点では、ヒノキの枯死や衰弱はみられませんでした。

 しかし、土壌中の物質を詳しくみると、酸の中和物質の濃度低下や、植物毒性が強いアルミニウムがみられました。このことから、酸負荷が続いた場合、土壌の緩衝能が弱まって酸性化が進行したり、植物への影響が顕在化したりする可能性があると思われます。

■おわりに

 酸性雨の影響は、突然発現する可能性があり、影響が現れたときには、既に対策の施しようがない危険性があります。

 このため、今後も土壌や森林のモニタリングを着実に実施し、監視していく必要があります。また、それ以上に技術開発や生活様式の見直しによって、酸性化物質そのものの排出を減らす努力が求められています。


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