健全な林道法面の形成に向けて
…厚層基材吹付工に適した種子配合の設計…

(林業センター)長谷川恵治



はじめに
 県内には厚層基材吹付工が施工された林道が多くあります。これらの林道の法面は、ある年度を境に植生の外観や種組成が大きく異なっています。古い法面では、ウィーピングラブグラスが優占し、写真のとおり基盤材の流亡による裸地部が目立っています。

 一方、新しい法面では、トールフェスクとメドハギが優占しこれらで程良く覆われています。
 これは、それまで使用してきた表1の種子配合を、厚層基材吹付工に適した種子配合に変更したためです。そこで、平成5年度に行った岐阜県の林道事業における標準種子配合の変更経緯と設計過程について紹介します。

表1 従来の種子配合
外来草本在来草本
種子ウィーピングラブグラス
クリーピングレッドフェスク
ホワイトクローバ
トールフェスク
希望発芽本数ウィーピングラブグラス 8,000本
その他 各4,000本
20,000本

植生の衰退と基盤材の流亡
 岐阜県の林道事業では昭和62年度から、土壌が硬い法面を永続的に緑化するため厚層基材吹付工が施工されるようになりました。この工法の普及によって、従来の工法では緑化することができなかった法面をジュウタンを敷いたように植生で覆うことができるようになりました。
 ところが、数年後に多くの個所で植生の衰退や基盤材の流亡が見られるようになりました。厚層基材吹付工によって初期緑化に成功したものの、目標とする永続的な植生の形成には至りませんでした。そこで、被害原因を究明し解決策を検討するため、被害個所の植生追跡調査を行いました。

植生の推移
 植生は、図1のとおりに推移していました。

勾配/経過年数0〜2年2〜3年3〜4年4年〜
5分(急勾配)外来草本の一斉繁茂植生の衰退
基盤材の流亡
植生が回復しない
8分(緩勾配)在来草本の侵入植生が回復する
図1 裸地部の植生の推移

 吹付後は、ほとんどの法面で外来草本が一斉に繁茂していました。しかし、吹付2〜3年後にはそれらの多くの個所で植生の衰退が目立つようになりました。
 そして、これらの個所のうち緩勾配法面では、在来草本が衰退個所に侵入し植生は回復していました。ところが、急勾配法面では衰退した個所の基盤材が流出し植生は回復していませんでした。
 そこで、植生の回復が期待できない急勾配法面における基盤材の流亡にしぼり原因を検討しました。

種子配合設計の誤りが原因
 基盤材の流亡は、植生が衰退した個所に多く発生していました。このことから、急勾配法面では根系の緊縛力が低下すると基盤材が流亡することが分かります。
 とくに、基盤材の流亡を引き起こす植生の衰退は外来草本が順調に生育し一斉繁茂した法面で多く発生していました。これは、肥料要求度が高い外来草本を必要以上に配合したため肥料切れを起こしたからです。そのため、外来草本ばかりで希望発芽本数が非常に多い種子配合設計の誤りが原因であると推定しました。
 そこで解決策として、早期に法面を覆い、裸地化することなく推移する新しい種子配合を設計することにしました。

新しい種子配合の設計
 肥料切れによる裸地化を防止するため、希望発芽本数を減らすとともに肥料要求度の低い在来草本を新たに配合することにしました。逆に、肥料要求度の高い外来草本の配合割合は、必要最小限の根系の緊縛力を早期に発揮させる程度に抑えることにしました。
 これらの条件を考慮して、希望発芽本数を3,000本/m2に、外来草本と在来草本の配合割合を1:1としました。また、外来草本3種と在来草本2種を配合することにしました。
 このようにして、表2の厚層基材吹付工に適した種子配合を設計しました。現在、林道事業でこの種子配合設計が主に使われています。

表2 新しい種子配合
外来草本在来草本
種子トールフェスク
クリーピングレッドフェスク
ホワイトクローバ
ヨモギ
メドハギ
希望発芽本数各500本各750本3,000本

おわりに
 新しい種子配合の設計によって、健全な植生が形成されるようになりました。しかも、法面の浸食防止ばかりでなく、裸地部の減少によって豊かな森林景観が提供されました。
 しかし、急勾配法面では木本植物でないと永続的に裸地化を防止することができません。今後は積極的に木本植物の導入を検討する必要があると思われます。


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