ケヤキ造林地におけるクワカミキリ被害について


(林業センター)大橋章博




後食の様子
●はじめに
 近年、広葉樹の価値が見直され、ケヤキをはじめとする広葉樹造林が行われるようになってきました。
 しかし、それに伴い、スギ、ヒノキ造林では見られなかった病害虫が発生するようになり、問題となっています。
 これらのうち、ケヤキ造林地において多大な被害を与えるクワカミキリについて被害実態をまとめましたのでここに紹介します。

●犯人はクワカミキリ
 調査を始めた当初は、加害虫が何か全く見当がつかず、孔の大きさから蛾の仲間ではないかと考えていました。しかし、被害木の割材調査や幼虫、食害痕などから、この犯人がクワカミキリであることがわかりました。
 クワカミキリは体全体が灰黄褐色の微毛で覆われた、体長36〜45mmの大型のカミキリムシです。古くからクワ、イチジクなどの害虫として有名ですが、このほかにもポプラ類、ヤナギ類、ミカン類など多くの樹木を加害する多犯性の害虫です。また最近では、公園や庭のカエデ、ドウダンツツジなどの被害も知られています。
 クワカミキリの幼虫は樹幹内を食害し、材の変色や強風による折損などを引き起こすため、優良材生産を目指すケヤキには大きな被害となります。
 また、クワカミキリ被害は、幼虫による穿孔だけでなく、成虫による食害も大きな問題となります。

●後食被害
 6〜8月に出現する成虫は、まず食樹の生立木の樹皮を食害します(写真)。これを後食といいます。羽化脱出したばかりの成虫は性的には未熟で、後食を行わないと交尾や産卵ができないのです。後食の被害について調べたところ、被害率は26%で、被害は枝径8〜15mmの枝に多くみられました。被害枝のほとんどは枝周囲の半分以上が食害されており、枯死する枝も多くみられました。

●産卵
 後食して成熟した成虫は、交尾後、産卵します。雌はまず樹皮を大顎で幅10mm、長さ15mm程度の大きさのU字型に咬み切り、その中に一粒産卵します。産卵後、粘着液物を出しながら尾端で樹皮面を押さえます。ここまで行うのに約40分もかかります。

●産卵部位
 産卵部位を調べてみると、産卵痕は、高さが0.4〜3.0mにみられ、特に1.6〜2.5mの高さに集中していました。産卵部位の枝径を調べると、産卵痕は10〜45mmの太さにみられ、このうち16〜20mmの太さに最も多くみられました。また、被害木の根元径と産卵痕の高さには相関関係がみられました。これらのことから、産卵部位の選択には枝径が大きく関与していることがわかりました。

●幼虫はきれい好き?
 孵化した幼虫は材部を下方に向かって食害していきます。坑道内のところどころに小さな孔をあけ、木屑や糞のほとんどを外に排出します。坑道内は常に空洞で、木屑を坑道内に詰める他のカミキリの幼虫と区別することができます。この孔(排糞孔)は糞を排出するためのものですから、坑道に比べると非常に小さいものですみます。


排糞孔

 糞の大きさは、若齢幼虫では細かく粉状ですが、幼虫が成長するにしたがい円筒状に連なって大量に排出するようになります。そのため、それに伴い排糞孔の大きさも大きくなります。孔の大きさは若齢では1.5mm、終齢では3mm程度となります。
 幼虫は2年から3年かかって成虫となります。しかし、排糞孔数の年次変動を調べた結果、幼虫の生存率は低く、1年目に材内に侵入した個体のうち、2年目まで生き残れたのはわずか4%にすぎませんでした。

●被害は成長の良い木に
 同一ケヤキ林の中で、穿孔被害木と無被害木の平均根元径を比較したところ、被害木が50mmであったのに対し、無被害木が44mmと有意な差がみられました。このことから、クワカミキリ被害は、同一林分内において、幹径の肥大成長の良い木に発生していると考えられます。

●おわりに
 今回の調査から、クワカミキリの加害特性がかなり明らかになりました。今後は、こうした習性を考慮して効果的な防除方法を検討していこうと思います。


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