スギ人工林の凍裂について


(林業センター)茂木靖和



写真−1

1.はじめに
 凍裂とは冬季の低温により、林木の樹幹が縦方向に割れる現象のことをいいます。この現象は、霜割れ、霜裂、寒裂とも呼ばれています。凍裂は、今回お話するスギの他にトドマツ、ヒバ等の針葉樹、ナラ、ニレ、ドロノキ、ヤチダモ、ヤナギ等の広葉樹にも発生することが報告されています。
 最近、日本各地において、スギの凍裂がかなりの頻度で、発生していることがわかってきました。凍裂材は、放射方向、繊維方向の割れや、それに伴う腐朽がみられ、利用価値、木材価格を著しく低下させます。そこで、大きな問題となりつつあるスギの凍裂を紹介します。

2.割れ状態
 写真−1は、スギの凍裂木の外観です。樹幹の中央部を上下に直線(矢印)が走っています。これが凍裂によって割れた部分です。
 普通、凍裂の下端は地上0.2〜0.7m、上端は地上2〜3mに位置し、凍裂の平均長さは2m前後が多いといわれています。まれにひどいものは、長さが6m以上になることがあります。凍裂の問題を深刻なものにしている原因の一つは、材価の最も高い一番玉で発生することです。


写真−2

 写真−2と図は、凍裂木の木口面です。図は、写真−2の割れ状態を写したものです。髄を中心に、数カ所放射状の割れが発生するとともに、年輪に沿った割れ、すなわち目回りが見られます。放射割れと目回りはつながっており、両者の発生経過に興味がもたれます。
 凍裂木は割れた部分の形成層が引き裂かれて、傷を受けます。生長期になると、その傷が閉鎖するように多量の新しい細胞を作り出し、割れめ付近の年輪は局部的に肥大します。この年輪の乱れを観察することにより、凍裂発生年を判定することが出来ます。この方法で写真−2の凍裂木の凍裂状況を調査した結果が、表のとおりです。

表 凍裂状況
断面高割れた年輪備考
0.2m47年放射割れ
 〃51年 〃
 〃51年 〃
 〃56年 〃
 〃69年 〃
 〃74年 〃
 〃74年 〃
 〃11年目回り
 〃22〜24年 〃
 〃24〜27年 〃
 〃28〜29年 〃

3.含水率
 スギ材の含水率は、一般に辺材より心材がかなり低くなっています。しかし、凍裂木の含水率は、心材と辺材がほぼ等しいか、心材の方が高い数値を示します。また、凍裂木は、心材色が黒くなっているもの(黒心)が多くあります。黒心は赤い心材(赤心)より含水率が高くなっています。
 凍裂の発生は、低温により材内部の水分が凍結する場合、水分が多いと膨張する力が強く、材が裂けるためと考えられています。

4.発生地域
 今までに凍裂の発生が確認されたり調査された地域は、県別にみると、本州では青森、岩手、秋田、宮城、茨城、福井、岐阜、奈良、三重、四国では愛媛、九州では福岡、大分等です。九州や四国の暖かい地域でも凍裂が確認されていることから、スギの凍裂は全国的広がりを持ったものといえます。
 岐阜県では、県南部の関ヶ原町、谷汲村、美山町、美濃市、可児市から県北部の国府町、丹生川村、荘川村までの多くの市町村で確認されています。

5.発生開始樹齢
 一般に、凍裂は幼齢木に発生することがなく、樹齢40〜50年以上の壮齢・老齢木に多く発生するといわれています。しかし、三重県では15年生のスギに、岐阜県でも下呂実験林で、21年生(郡上スギ)、27年生(乗政スギ)、30年生以下(山武スギ、八郎スギ)に凍裂が確認されています。
 このことから品種や地域によっては、20年前後から凍裂が発生し始め、40年以上になるとその被害が拡大すると考えられます。

6.発生率
 凍裂木は、材価が低く森林所有者に大きな被害を与えます。しかし、発生率が低く、間伐等で凍裂木をすべて除去できれば、被害は最小限ですみます。
 当林業センターで行ったアンケート調査や現地調査の結果では、ほとんどが10%以下の凍裂発生率でした。しかし、大和町古道で30%、下呂町小川の下呂実験林で乗政スギが12本中5本(42%)と高い発生率でした。

7.発生環境
 凍裂木の発生は、谷筋の比較的傾斜の緩いところで多いと、よくいわれます。しかし、実際には、山腹の傾斜地でも、高い凍裂発生率が確認されています。
 また、粘土質で透水性が悪く湿った土壌において、高い凍裂発生率が報告されています。このことから、土壌と凍裂木発生との関連性は大きいと思われます。

8.おわりに
 現在、木材価格の低迷等から、伐期が延びてきています。しかし、樹齢が高くなることは、それだけ、凍裂等の被害を受ける可能性が高くなります。従って、凍裂発生率の高い林分では、伐期を早めることも必要となります。
 林業センターでは、今年度から「スギ人工林における凍裂実態調査」を行っています。この調査では、凍裂被害の実態、発生機構を解明して、その対策の検討を行ってます。


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