好ましさを尺度とした林内景観の評価

(岐阜県森林科学研究所)井川原弘一


写真 清見4での心象評価の様子
写真 清見4での心象評価の様子

■はじめに
 林内景観は森林内の快適性を決定する重要な因子であるという報告があります。そのため,林内景観を好ましく保つことは,森林を保健休養林として利用するうえで重要になります。
 林内景観を構成する因子にはいくつかあり,林内景観を整備するうえで重要とされる「見通しの良さ」もこの中の一つです。しかし,林内景観とこれを構成する因子との関係については不明な点が多いのが現状です。この状況では,どんな森林を対象に,どんな整備を行えば,保健休養林としての機能がいかんなく発揮されるのかがわかりません。
 そこで,本研究では“林内景観”とこれを構成する因子である“樹木の姿”,“森林内の色合い”,“見通しの良さ”の3つについて好ましさを尺度として心象評価を行いました。その結果,保健休養林の整備に関する情報が得られたので報告します。

■どんな森林を対象に?
 対象とした森林は清見村西ウレにある生活環境保全林「せせらぎ街道 四季の郷」内の落葉広葉樹林4林分と美濃市曽代にある森林文化アカデミー演習林内の針葉樹人工林3林分としました。
 現地調査は胸高直径,樹高,枝下高の測定と周囲測量を行いました。また,樹冠の位置によって上層木,中層木,下層木に区分しました。調査対象林分の概況については表−1に示します。
 ここで,美濃2の立木密度が大きな値を示したのは,萌芽更新したアラカシやヒサカキなどが上,中層にあったことが理由として考えられます。

表1調査対象林分の概況

■どう評価したのか?
 心象評価は評価地点を森林内に設け,緑葉期にアンケート形式で行いました。被験者全員が同じ景観を評価できるように視点と眺める方向を統一しました。設問には“林内景観”とその構成因子である“樹木の姿”,“森林内の色合い”,“見通しの良さ”について「好ましい−嫌い」を基準とした7段階の等間隔尺度を設け,各林分について評価してもらいました。評価の結果には,3,2,1,0,-1,-2,-3の評点を与え解析しました。なお,被験者は林業短期大学校の学生(清見1〜3,美濃1〜3)と森林文化アカデミー主催の生涯学習の参加者(清見2〜4)としました。

■評価の結果は?
 心象評価の結果を対象林分別の頻度分布図としてまとめたものが図−1です。頻度の分布が左に偏っているものが,好ましい評価を得ていることになります。ここでは,被験者の85%以上が好ましい(評点1以上)と評価した林分を好ましい林分,50%以上が嫌い(-1以下)と評価した林分を嫌われた林分として,どのような結果になったのかみることにします。

図1 心象評価の結果(頻度分布)
図−1 心象評価の結果(頻度分布)

 林内景観をみると,好ましいと評価された林分は落葉広葉樹林の清見3,4と針葉樹人工林の美濃3でした。一方で,嫌われた林分は美濃2でした。
 樹木の姿をみると好ましいと評価された林分は清見2,3,4と美濃3であり,嫌われた林分は美濃2でした。好まれた林分では平均直径がおよそ30cm以上であり,嫌われた林分は平均直径が10cmに満たない林分でした。このことから,樹木の姿の好ましさとして,木の太さ(胸高直径)が評価されていると考えられます。
 色合いをみると,好まれた林分はすべての落葉広葉樹林(清見1〜4)でした。一方で,嫌われたのは美濃2でした。調査事例が少ないですが,このことから,落葉広葉樹林であれば色合いは好まれるものと考えてもよさそうです。
 見通しの良さをみると,好まれた林分は清見3と美濃3であり,嫌われた林分は清見1と美濃2でした。嫌われた林分は,上中層と下層をあわせた立木密度が,およそ4,000本/haを超える高密度な林分でした。好まれた林分のうち針葉樹人工林である美濃3は600本/haとこのサイズの林分としては,比較的密度の低い林分でした。落葉広葉樹林である清見3では,上中層木の立木密度が370本/haと比較的低いことから,このような評価になったと考えられます。しかし,清見3よりも低密度である清見2の評価があまりよくないことを考えると,見通しの良さの指標は立木密度が低いことであるとは,一概には言えないようです。
 このように,林内景観が好まれた林分は,それぞれの構成因子も好まれており,嫌われた林分では構成因子の評価でも嫌われていることがわかりました。

■林内景観の好ましさを決定する因子
 それでは,林内景観の好ましさに対する影響力が大きい構成因子は何でしょうか。これがわかれば,保健休養林を整備するときのポイントをしぼることができます。
 森林タイプが違えば林分構造も異なるため,評価の傾向も異なることが予想されます。そこで,被験者の評価について森林タイプ別に評点の相関をみることにしました。林内景観の好ましさと3つの構成因子の好ましさの相関を表−2に示します。

表2 林内景観と構成因子の好ましさの2次偏相関

<落葉広葉樹林>
 落葉広葉樹林における林内景観の好ましさと相関の高い因子は,樹木の姿でした。樹木の姿は,現在ある樹木の姿や形であるため,森林整備によって,すぐに大きくすることはできません。そのため,既存の落葉広葉樹林を保健休養林として改良しようとするときは,樹木の姿を基準に−今のところ胸高直径30cm程度を指標に−保健休養林として利用できる林分かを判断することが有効であると考えられます。
<針葉樹人工林>
 針葉樹人工林においては,林内景観と樹木の姿(整備できない),見通しの良さ(整備が可能)の間の相関が高いことがわかりました。つまり,木の太さで保健休養林として利用できるか判断した後,好ましい景観を管理していくためには,見通しの良さを確保することが重要であると考えられました。

写真 清見3での心象評価の様子
写真 清見3での心象評価の様子

■おわりに
 森林景観や保健休養機能は,人が介在しないと評価することができません。そのため,調査事例を大量に集めることは難しいですが,今後,調査事例を増やし,より具体的な管理指針について検討していきたいと考えています。


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