スギ不成績造林地をより良い山に
−広葉樹が混交する不成績造林地の除伐による改良−

(岐阜県森林科学研究所)横井秀一


■スギの不成績造林地は
 戦後進められた拡大造林施策により,わが国には1千万haという広大な人工林が造成されました。それらは,将来の木材資源を担う森林です。しかし,数多くある人工林の中には木材生産機能を果たすことができそうにない人工林が存在します。ここで取り上げる雪圧害によるスギ不成績造林地もその一つです。
 スギは,雪に強い樹種です。しかし,スギといえども植えられた場所の積雪があまりに多ければ,幹が曲がる,幹が折れる,枯死する,といった様々な雪圧害を受けます(写真−1)。雪圧害は積雪という環境に起因するため,被害地では造林木の大半が被害を受け,その造林地の経済的価値は著しく損なわれます。こうした造林地が本州日本海側の地方などにみられ,造林の目的(ふつうは木材生産)が達成できないことから不成績造林地という不名誉な名前で呼ばれています。不成績造林地では,時として公益的機能の低下が懸念されることもあります。

写真1 雪圧害を受けたスギ造林木
写真−1 雪圧害を受けたスギ造林木

■不成績造林地の取扱いを考える
 では,こうした不成績造林地はどうすればよいのでしょうか。それを考えるには,まずその実態を把握することが大切です。そのための調査が十数年前,共通の問題を抱えるいくつかの県の研究機関によって行われました。その結果,スギ不成績造林地にはいくつかのタイプがあり,最も多いのがスギと天然更新した広葉樹とが混交しているタイプであることがわかりました。そこでは,スギによる林冠の閉鎖が進まないため,下刈りや除伐のたびに除去されてきた広葉樹が再び更新していたのです。その樹種をみると,高木性の広葉樹が存在する不成績造林地が多いこともわかりました。このことは,それらの広葉樹をそのまま混交させれば,少なくとも公益的機能上は問題のない,広葉樹の樹種によっては経済的な価値もある森林になりそうな不成績造林地が多いということを示唆しています。
 そこで,最も多かった混交林タイプの不成績造林地の取扱い方を検討することにしました。今のまま放置すればよいのか,それとも手を加えればそれだけの効果があるのかが,全く不明だったからです。手を加えるとすれば除伐が妥当だと考え,それを検証するための試験地を1990年に作りました。

■除伐試験地の設定
 試験地としたのは,宮川村の当時21年生だったスギ造林地です(写真−2)。この造林地は,前生の広葉樹林が皆伐された後にスギが造林され,その後6年間の下刈りと11年生時の除伐を経たものでした。しかし,最深積雪深が2.5mという環境のため雪圧害が発生し,残っていたスギは当初の半数しかなく,その多くも形質不良木でした。スギがない場所には,様々な広葉樹−ミズキ,ホオノキ,ウリハダカエデ,バッコヤナギ,クリ,イタヤカエデなどの高木性樹種,ツノハシバミ,リョウブ,タニウツギなどの低木性〜中高木性の樹種−が生育していました。

写真2 試験地の相観
写真−2 試験地の相観

 この造林地の斜面下部を横並びの3つの施業区(除伐A区,除伐B区,無施業区)に分割し,それぞれの中に調査区を設定しました。除伐A区では(1)スギを全て保残し,(2)スギのない部分では市場価値の高そうな広葉樹(それがなければ高木性の広葉樹)を立て木とし,(3)それ以外の広葉樹は全て除伐しました。除伐B区では(1)スギも広葉樹も同等に扱い,(2)市場価値が高そうな(なければ高木性の)個体を立て木とし,(3)立て木の成長を阻害する個体だけを除伐しました。表−1は,除伐前後の林分概要です。

表1 除伐前後の林分概要(胸高直径2cm以上の立木が対象)

■除伐の効果を評価する
 2001年で試験を始めてから11年が経過しました。除伐区においても既に林冠が閉鎖し,個体の優劣がはっきりしてきました。現在の優勢木は将来の主林木の候補です。そこで,優勢木を施業区間で比較することで除伐の効果を検証することにしました。
 まず,11年間の成長量(各区の平均)を施業区間で比較しました。直径成長量はスギが7.7〜8.9cm,広葉樹が7.0〜7.4cmで,両者とも施業区間に統計的な差はありませんでした。樹高成長量はスギが5.3〜6.0m,広葉樹が4.8〜5.5mで,広葉樹に統計的な差(除伐A区が他の2区より小さい)がみられました。したがって,除伐によって成長が促進されたということはありませんでした。
 では,質はどうでしょうか。優勢木を測定するとき,樹種と幹の形質からみて将来その木が用材として利用できそうかどうか評価しました(利用できそうなもの:収穫○,ダメそうなもの:収穫×)。図−3はその本数割合を,図−4は胸高断面積合計の割合を示したものです。どちらもグラフの円の面積が数値に比例するようにしてあります。

図1 優勢木の利用期待度別本数割合
図−1 優勢木の利用期待度別本数割合
図中の数字は,本数の実数(本/ha)を示す。
図2 優勢木の利用期待度別断面積割合
図−2 優勢木の利用期待度別断面積割合
図中の数字は,胸高断面積合計の実数(m2/ha)を示す。

 本数では,スギと広葉樹の合計値が無施業区で除伐区の1.3〜1.4倍ほどありました。しかし,収穫○の本数は除伐区が少し多く,そのため優勢木に占める収穫○の割合は除伐区(73〜84%)が無施業区(49%)よりかなり大きくなりました。一方の胸高断面積合計では,スギと広葉樹の合計値は施業区間でほとんど差がありませんでした。収穫○の胸高断面積合計は,除伐区が無施業区の1.5〜1.7倍でした。また本数,胸高断面積合計とも,除伐A区と除伐B区の差はそれらと無施業区との差に比較して小さいものでした。これらのことから,森林の質は除伐によって改善されたとみることができそうです。これは,この11年間,除伐区では主に選抜された立て木が成長して森林が発達してきたのに対し,無施業区では市場価値の低いものも同時に成長してきたことによるものだと考えられます。
 収穫○の個体と収穫×の個体とに,成長量や現在のサイズの違いはありませんでした。したがって,この先さらに森林が発達しても収穫○と収穫×との比率は今とそれほど変わらないと考えられます。このことを含めて評価すれば,目的(この試験では経済的価値を高める)に合致する個体を立て木とした除伐は,主林木に占めるそれらの比率を高めることで目的の達成に貢献するという点で有効であるといえそうです。除伐の方法は,スギに固執する状況にないことや立て木の成長に影響しないものまで除去する必要がないことから,除伐B区の方法がよいでしょう。

■残された問題
 針広混交林タイプの不成績造林地では除伐による改良が期待できるとしても,不成績造林地にどこまで手をかけられるのかという問題があります。除伐の効果が期待できるようならば,この試験地の無施業区の姿からもわかるように,放置してもそこそこの森林になると考えられます。除伐を実施するかどうかは,現場の現況とその将来性を評価した上で,除伐の費用対効果を考慮して判断する必要があるでしょう。
 さらに深刻な問題は,放置したままでは雪食崩壊が発生するおそれのある不成績造林地が存在し,その改良方法がまだ不明なことです。改善策を見つけ,必要な手当を施すことが急務となっています。


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