森林の雰囲気は森林の種類によって異なるのか?

(岐阜県森林科学研究所)井川原弘一


□はじめに
 近年,森林は木材生産以外の場としても利用されるようになってきました。とくに,森林浴や森林散策を楽しむことで,日常の疲れを癒すといった利用が増えています。森林と私たちの関わりはこうした保健休養の部分が大きなウエイトを占めるようになってきたため,この分野の研究が強く要請されています。
 ところで,みなさんは森林内を散策していて「さっきの森林とは雰囲気が違うなあ」と感じたことがありますか。もしも,森林にその種類に特有な雰囲気があるとすれば,森林の種類によって癒しの効果にも違いがでてくるのではないでしょうか。
 そこで,今回は森林の持つ雰囲気は異なるのか検討することを目的として,森林内のイメージ解析を行いました。

□森林の雰囲気を解析するには?
 “森林の持つ雰囲気”や“森林景観”を評価するには,心象評価という手法がとられます。心象評価とは人の感性を評価する方法です。
 心象評価の中で,評価対象のイメージを解析する方法としてSD法(意味微分法)がよく行われます。これを利用して森林の持つ雰囲気を解析することにしました。SD法は相反する形容詞を対にして,その間を7段階程度に区切って評価尺度とします。いくつかの評価尺度に関して評価を求め,その結果を解析することで,評価対象がどのようなイメージによって決定されているかがわかります。
 ここでは表−1に示すような15組の形容詞対を用いて森林のイメージを解析しました。評価者は岐阜県林業短期大学校の1年生22名(男20,女2)としました。評価は森林内を散策させた後でアンケート用紙を配付して行いました。

表1 使用した形容詞対

□どんな森林を評価して,その結果は?
 岐阜県には暖温帯の常緑広葉樹林から亜寒帯の常緑針葉樹林まで多様な森林があります。その中で,私たちの生活の近くにある常緑広葉樹林と落葉広葉樹林,針葉樹人工林を対象に行いました。

【常緑広葉樹林】
 常緑広葉樹林の評価は,岐阜市金華山にひろがる常緑広葉樹の自然林を対象に1999年5月20日に行いました(写真)。この日の天気は晴れで,気温は林外で32.0℃,林内で21.5℃でした。
 この森林は階層構造が発達していました。高木・亜高木層には胸高直径20〜35cm程度のコジイとアラカシが優占し,下層植生はサカキやヒサカキ,アセビ,タカノツメなどの高さ2.0mほどの低木層とウスノキやツルアリドオシなどの草本層から構成されていました。

写真 常緑広葉樹林表2 常緑広葉樹林の解析結果

 この林分での評価結果を検討したところ,表−2に示すように常緑広葉樹林のイメージが解析されました。1番目の因子は「快適性」であり,常緑広葉樹林のイメージを決定する27%を占める要因でした。以下,力量性(22%),親近性(15%),明るさ(10%),の因子でイメージづけられていることがわかりました。

【落葉広葉樹林】
 落葉広葉樹林の評価は清見村西ウレにある生活環境保全林“四季の郷”内のブナ天然生林を対象に1999年6月2日に行いました(写真)。
 この日の天気は曇り時々晴れで林外は31.6℃,林内は20.3℃でした。この林の高木層には平均直径45cmのブナが優占しており,亜高木層にはミズメ,アオハダ,ナツツバキなどがあり,草本層は高さ1.0mのチシマザサで覆われていました。

写真 落葉広葉樹林表3 落葉広葉樹林の解析結果

 落葉広葉樹林内での評価を解析した結果は表−3に示すとおりです。落葉広葉樹林のイメージを決定する因子は,自然性(22%),快適性(19%),親近性(16%),開放性(15%),涼しさ(9%)であることがわかりました。

【針葉樹人工林】
 針葉樹人工林の評価は伊自良村釜ケ谷にあるスギ人工林で1999年7月14日に行いました(写真)。この日の天気は曇り時々雨で林内は27.0℃でした。
 この林分の平均直径は30.9cmであり,立木密度は660本/ha,平均枝下高は10.0m,枯枝は枝打されていました。林床は明るく,高さ0.2m程度で刈り払いが行われている管理の行き届いたスギの壮齢林でした。

写真 針葉樹人工林表4 針葉樹人工林の解析結果

 針葉樹人工林での解析結果を表−4に示します。針葉樹人工林の林内のイメージは,開放性・快適性(26%),力量性(21%),自然性(19%),神聖さ(11%)という因子によってつくられていることがわかりました。

□共通した因子は快適性
 これら3種類の森林をイメージづける主要因子の関係について図−1にまとめました。この図からすべての森林に共通した因子は「快適性」であることがわかります。また,常緑広葉樹と落葉広葉樹には「親近性」が,常緑広葉樹と針葉樹人工林には「力量性」が落葉広葉樹林と針葉樹人工林には「自然性」と「開放性」が共通した因子として考えられました。

図1 森林の種類による主要因子の関係

 一方,その森林にしか出てこなかった因子は,常緑広葉樹林が「明るさ」で,落葉広葉樹林が「涼しさ」,針葉樹人工林が「神聖さ」であることがわかりました。
つまり,森林の中のイメージ(雰囲気)は「快適性」によって決定され,その他の因子が付加されることで,その森林特有のイメージがつくられていくことがわかります。

□おわりに
 森林のもつ雰囲気は森林の種類によって異なることがわかりました。したがって,森林浴や森林散策による癒しの効果も訪れる森林によって変わることが予想されます。
 今後は,森林の雰囲気を向上させる整備の方法について検討していく予定です。


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