ヒノキ高齢林における土壌侵食の危険性と下層植生の管理

(岐阜県森林科学研究所)井川原弘一


写真.88年生ヒノキ林の下層植生の状況
写真.88年生ヒノキ林の下層植生の状況

 ヒノキ林は、落葉がバラバラになりやすいため林地に堆積しにくいこと、林冠が閉鎖すると林内照度が極端に低くなるため下層植生が衰退しやすいことから、土壌侵食の発生が危惧されています。しかし、ヒノキの高齢林において、下層植生がほとんどない林を目にしたことはありません。また、どんな下層植生が多ければ、土壌侵食が少なくなるのか分かっていません。
 そこで、今回は、91年生と88年生のヒノキ林における調査結果から、高齢林の土壌侵食の危険性、下層植生の管理方法について検討しました。

●91年生ヒノキ人工林
 立木密度は950本/ha、平均直径は30cmと、林齢から考えると過密状態にある林です。林床には、高さ4m前後のサカキ、ヒサカキ、シキミ、シロモジ、コシアブラなどが茂っていました。
 この中から12本を選んで、樹高と樹齢を測定しました(図1)。樹高は4〜5mのものがほとんどでしたが、樹齢は17〜50年とばらついていました。このことは、この林における下層植生の発達が50年前(林齢で40年頃)から始まり、初期に侵入した樹木も上木(ヒノキ)によって伸長成長が抑えられていることを示しています。

図1.下層木の樹齢と樹高の関係
図1.下層木の樹齢と樹高の関係

●88年生ヒノキ人工林
 この林は立木密度が480本/ha、平均直径が36cmでした。林床は高さ1m程度のシロモジ、リョウブ、コシアブラなどに覆われていました(写真)。
 この林では、下層植生の刈り払いが定期的に実施されており、前回は5年前に行われています。

●土壌侵食の危険性と下層植生
 土壌侵食は地表面の被覆状態(植生や落葉落枝層)に影響され、地表面にはその痕跡が残ると考えられています。そこで、土壌侵食危険度指数(土壌侵食の痕跡を調査した結果から得られる土壌侵食の危険性を示す相対的な数値)を用いて下層植生の量と土壌侵食の危険性について検討しました。

図2.植被率と土壌侵食危険度指数の関係
図2.植被率と土壌侵食危険度指数の関係
図3.高さ30cmを境にした植被率の関係
図3.高さ30cmを境にした植被率の関係

 地表面を侵食から保護する効果が高いのは、地表面に近い植生と考えられています。高さ30cm未満の植被率と土壌侵食危険度指数の関係を図2に示します。地表面に近い階層の植被率が大きいほど土壌侵食危険度指数が小さいことがわかります。
 また、高さ30cmを境にした植被率の関係を図3に示します。30cmを超える階層の植被率が大きいほど、地表面に近い階層の植被率が小さいことがわかります。
 以上のことから、遠目には豊かに見える下層植生も高さが2mを超えるようになると、地表面に近い植生がなくなり、土壌侵食が発生しやすくなると考えられます。そのため、ヒノキ高齢林における土壌侵食防止には、下層植生が高くなったら、刈り払いを行うことが有効であると考えられます。


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