巻き枯らしによる間伐の問題点
〜森林保護の立場から〜

(岐阜県森林科学研究所)大橋章博


 木材価格の低迷が長引く中、林業経営意欲の低下や林業労働力の不足から、間伐の遅れたスギ,ヒノキ林が多くなっています。このような森林は風雪害に弱いばかりか、森林の公益的機能も低下するので、早急に間伐を実施して、適切な密度で管理する必要があります。
 こうした中、巻き枯らしによる間伐が注目されています。この方法はチェーンソーなどの機械を使わないことや伐倒を伴わないことから、安全で簡単に、しかも短時間で実施できる長所があります。しかし、一方で、いくつか問題点も指摘されています。
 そこで、ここでは森林保護の立場から巻き枯らしについて考えてみようと思います。

■巻き枯らしとは

図1巻き枯らし処理後のスギの枯死率

 巻き枯らしというのは、ナタを使って樹皮と形成層の部分を環状に削り落として木を枯らす方法(環状剥皮)です。意外に誤解されている方が多いのですが、これは、水が根から葉に供給されなくなって枯れるわけではありません。形成層と内樹皮を切断すると、葉で作られた光合成物質は根に運ばれなくなります。すると根の生長は止まり、やがて水を吸い上げる力がなくなり、木が枯れるのです。このため、木が枯れるまでには少なくとも数ヶ月、長いものでは1年以上要します(図-1)。
   最近では、環状剥皮する代わりに、幹に傷をつけて、そこに除草剤を注入して木を枯らす方法(薬剤処理)も行われているようです。


■巻き枯らし木は穿孔虫の温床
 枯死するまでに時間がかかる、ということは、森林保護の面から見ると、とても重要な問題を含んでいます。
 間伐木を林内に放置すると穿孔虫が増加します。この点では巻き枯らしと切り捨て間伐とに差はありません。しかし、巻き枯らし木はすぐに枯れないため、長期にわたり穿孔虫に適した餌資源を供給することになります。この点で切り捨て間伐とは大きく異なります。

■キバチによる変色被害
 穿孔虫が増えても大した問題ではないように思えますが、そうではありません。これらの中には虫の密度が高くなると健全な木にも加害するものがいるからです。その代表がキバチ類です(写真-1)。
 キバチ類は衰弱木や新鮮な枯死木でしか繁殖できません。 生きた木に産卵しても幼虫は成育できませんが、共生菌によって材に星形の変色が入ります(写真-2)。この変色が入ると、木材の取引価格は半分以下に下がってしまいます。

写真1ニホンキバチ
写真1.ニホンキバチ
写真2キバチによる変色被害
写真2.キバチによる変色被害

■どうすればよいか?
 木を伐倒する場合は、キバチの出現時期と間伐時期をずらすこと、すなわち、キバチ類の発生が終わる晩夏以降に間伐を行うことで被害を防ぐことができます。しかし、巻き枯らしの場合、枯れるまでに長い期間かかるため、こうした方法で被害を回避することは困難です。ただし、前述した薬剤処理による間伐であれば、枯れるまでの期間が短いので(図-1)、処理時期の調整で被害を回避することができるかもしれません。

■おわりに
 残念ながら、現時点では巻き枯らし間伐に有効な害虫防除の方法はありません。
 今後、森林ボランティア活動が、益々、盛んに行われるようになると、巻き枯らしも一層、増加すると考えられます。しかし、安易に巻き枯らしを進めることは、予期せぬ森林被害を招くことになりかねません。巻き枯らしによる間伐を計画する場合、対象となる林を予め調査して、伐根や倒木にキバチ類の穿孔が多数みられる場合は巻き枯らしを避けるのが賢明です。


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