間伐木の処理方法と土壌侵食量

(岐阜県森林科学研究所)井川原弘一


 ジメジメとした梅雨がようやく明けました。梅雨の間、森林内には絶えず雨が降り注いでいたはずです。今回はこの降水がひきおこす土壌侵食(表面侵食)についてお話しします。本誌、平成14年6月号で紹介しましたように、整備が遅れたヒノキ人工林は土壌侵食を防止する効果が低下することが知られています。

◆土壌侵食を防ぐ方法
 土壌侵食を放置すると土壌浸透能が低下するので、浸透水の減少や土砂流出が起きるなど、森林の持つ水土保全機能に大きな影響を与えます。つまり、土壌侵食を防ぐことは、水土保全機能を維持するための第一歩であるといえます。そのためには、林地面を雨滴から守ることが大切です。たかが雨粒といっても油断はできません。降雨は樹冠に遮断され、一時的に葉に蓄えられます。そして、大粒の滴となって林地面に落ちてくるからです。
 林地面を守るには、この雨滴を物理的に遮断する必要があります。そのために、下層植生や落葉層が必要になるわけです。ヒノキの落葉は鱗片葉であるため、雨滴衝撃によって容易に破壊されてしまいます。そのためヒノキ葉による林地面の保護は期待できません。そこで、森林整備によって林地面に光を入れ下層植生の発達をうながす必要があります。

◆下層植生に代わるもの
 森林整備を実施してもすぐには下層植生は発達しないことは常識的に考えても明らかです。そこで、森林整備時に発生するモノで林地面を保護してやれば、土壌侵食量が減るのではないかと考えました。
 下呂小川長洞国有林内の36年生のヒノキ人工林に森林整備時に発生した間伐木の処理方法を違えた土壌侵食量の測定試験地を設けました。この林分は2002年3月に本数率で3割程度が間伐され、試験地は6月に設定しました。試験地内には、次の3試験区を設けました。保安林整備事業などでよく行われている伐倒木を玉切り、積上げ整理した「整理区」。伐倒木の枝条を払い、長いままの状態で伐倒木を等高線方向に並べ、払った枝条を林地面に散布した「散布区」。伐倒したあと何もせずに放置した「放置区」です。
 試験区には土砂受け箱を5個づつ、ほぼ直線状に設置しました。この箱の中にたまった土砂等を毎月回収したあと、礫と落葉、細土に区分して、乾燥(80℃、24時間)後の重量を測定しました。なお、回収時には土砂受け箱の直上部の地表面を落葉落枝が覆っている割合(落葉被覆率)を調べました。ここでは、バラバラになったヒノキ鱗片葉は被覆に貢献しないと考え、除きました。

土砂受け箱の設置状況
土砂受け箱の設置状況

◆侵食量はどうだったか?
 侵食量の測定結果を図1に示します。降水量に応じて各月の侵食量が増減していることがわかります。12月〜2月までの冬季間の侵食量は少ないことがわかります。ここで試験区間の侵食量を比較してみます。侵食量が比較的多かった9〜11月、3〜6月の侵食量は多い順に放置区、整理区、散布区の順でした。
 侵食量の差は何に起因しているのでしょうか。そこで、土砂受け箱にたまった細土重量と落葉被覆率との関係をみたところ、細土重量は落葉被覆率が40%を境に、被覆が少ないときに侵食量が多く、被覆が多いときに侵食量が少ない傾向を示しました。このことから考えると散布した枝条が、侵食量の多少を決めたものと考えられます。
 今後の経過をみる必要はありますが、払った枝条の処理方法を変えるだけでも、一年間は土壌侵食防止機能の向上に効果がありそうです。

図1 土壌侵食量と降水量の推移

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