森林に求められる機能は何か?

(岐阜県森林科学研究所)井川原弘一


 森林は木材生産以外にも数多くの公益的な機能があると考えられています。この機能は古くから重要視され、江戸時代には「水持山」(みずもちやま)、「砂留山」(すなどめやま)などと呼ばれ、藩レベルで保護される森林がありました。1897年には保安林制度が発足し、国家レベルで公益的機能を持つ森林が管理されることになりました。
 この中には、土砂流出の防止や崩壊防備など災害を防止する機能や水源かん養機能、風致機能などがあります。また、最近では生物の多様性を保全する機能や森林が二酸化炭素を吸収することで地球の温暖化を防止する機能などが注目されるなど多様な機能が森林に期待されています。
 しかし、森林の持つ多様な機能が脚光を浴びている中で、実際に県民の方々は、森林の持つどんな機能に期待しているのでしょうか。
 これを把握するために、平成12年度の研究成果発表会において森林の持つ機能に関するアンケート調査を行いました。その結果から、森林に期待されている機能について考えてみることにします。

●アンケートの回答者
 アンケートは、アンケート用紙を配付資料の中に入れておき、回収箱で回収する方法で行いました。研究成果発表会の参加者が約180人であったのに対し、協力頂けた方は88人であり、回答者のほとんどは林業関係者でした。これらの回答のうち記入漏れなどのあるものは除いて解析に使用しました。

●イメージする森林は?
 回答者の方々が、どのような森林をイメージして回答したのかについて把握しておくことは重要です。そこで、「森林と聞いてイメージするのはどちらか」という設問を設け、該当する項目を選んでもらいました。この結果を図ー1に示します。協力頂いた林業関係者の方々がイメージする森林は「奥山にある林」で「自然林」「落葉樹林」であることがわかりました。この中で落葉広葉樹の自然林をイメージした人は全体のおよそ30%を占め、針葉樹人工林をイメージした人はおよそ10%を占めていました。

図ー1 森林のイメージ

●重要だと思う森林の機能
 それでは、県内の林業関係者が森林の持つ機能のうち重要と考えている機能は何でしょうか。森林が持つと考えられる13の機能の中から大切であると思う3つの機能を選択してもらいました。これら13の機能を6つにまとめ、各機能の選択率を示したものが表ー1です。また、平成11年10月に総理府が20歳以上の国民を対象に行った「森林と生活に関する世論調査」の中で森林に期待する3つの働きについて聞いていますので、この結果も対比してあります。

表ー1 森林の機能分類と選択率

 今回のアンケートの対象者が林業関係者であるのに対し、世論調査の結果は一般の方の意見の集約であると考えられます。この結果から、林業関係者と一般の方の間には、森林に期待する機能に大きな違いがあることがわかります。
 林業関係者は、木材生産と同時に水源をかん養する場として森林は重要であるという認識を持っているのに対し、一般の方は保健休養や情操教育、大気の浄化の場であるという認識が強いということです。世論調査で大気の浄化の選択率が高かった理由として、世論調査が行われる2年前の1997年12月にCOP3の会議が京都で行われ、地球温暖化防止への森林の働きがクローズアップされていたことが考えられます。

●森林機能への期待度
 人里近くにある森林(里山林)と山奥にある森林(奥山林)では期待される機能に、違いがあるのでしょうか。これを検討するために、それぞれの森林において森林の持つ機能の2つを比較し、どちらがどのくらい重要だと思うかを一対比較で求めました。この結果から得られた数値を期待度として図ー2に示します。この図は、森林の持つ機能に対する期待度を1としたときのそれぞれの機能に対する期待度を示しています。

図ー2 森林の持つ機能への期待度

 奥山林においては、水源のかん養、災害の防止、生物の保全、大気の浄化、木材の生産、アメニティの順で森林に対する期待が大きいことがわかります。また、先程の調査において、木材の生産は62%と非常に高い選択率でしたが、期待度としては11%と公益的機能への期待度の方が大きいことがわかります。一方、里山林では奥山林に比較して、災害の防止とアメニティの割合が大きいことから、これらの機能に対して期待が寄せられていることがわかります。
 今後は、一般の方々が森林に何を期待しているのかを把握し、期待の寄せられている機能について検討する必要があります。そして、これらの機能に対して森林がどう影響を及ぼしているのか評価し、さらにその機能を効果的に発揮するための森林整備の方法について検討していきたいと考えています。


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