球果と果樹の害虫 チャバネアオカメムシ

(岐阜県森林科学研究所)大橋章博


 花粉症の人にとって嫌な季節がやってきました。この頃になるとスギやヒノキは世間から厄介者呼ばわりされます。このスギやヒノキを恨めしく思う人は花粉症の方ばかりではありません。
 果樹農家もその中の一人です。
 何故なら、スギやヒノキの球果で繁殖したカメムシ類が果樹園に飛来して、ミカン、カキ、ナシなどに被害を及ぼすからです。球果と果実を加害するカメムシ類は一体どんな生活をしているのでしょうか。
 今回はそんなカメムシ類について紹介します。
 では,どうすれば広葉樹の造林地で誤伐をなくすことができるでしょうか。最も確実なのは,下刈りを省略することです。下刈りは夏の炎天下での作業であるため,それが可能なら辛い労働から解放されるというメリットもあります。しかし,これは下刈りを省略しても植栽木がきちんと育つという前提があって,初めて成り立つ話です。そこで,ケヤキの造林地で下刈りを省略するとどうなるのか,という試験を行いました。その結果から,広葉樹の造林地での下刈りについて考えてみます。

●周期的に大発生
 カメムシ類の被害は以前から局地的に発生していましたが、昭和年代に入ると突如として全一国的に被害が発生し、大きな問題となりました。それ以降、被害は数年に一回の周期で発生しており、平成八年は史上稀にみる大発生の年となり(図−1)、本県でもカキを中心に大きな被害をうけました。

図1 チャバネアオカメムシ誘殺数の推移(岐阜市)

●カメムシは種子食
 果樹を加害するカメムシ類は十数種知られていますが、このうち最も重要な種はチャバネアオカメムシです。
 本種は果樹のほか、スギ、ヒノキなど百種以上の植物に寄生します。成虫は植物の結実状況に合わせて植物間を移動します(図−2)。このうちスギ、ヒノキは植栽面積が大きく、餌としての利用期間が長いため、主要な寄主植物となっています。本種がスギ、ヒノキの球果を吸汁すると、発芽率は著しく低下します。一般にヒノキの発芽率は十%程度と低いのですが、袋掛けを行ってカメムシの被害を防ぐと、発芽率は五〜六倍高くなります。
 スギ、ヒノキの球果が充分あれば、カメムシは他の植物へ移動しませんが、餌が不足すると果樹へ移動するものが現れます。

図2 チャバネアオカメムシの生活環模式図

 しかし、最近の研究で、果樹の果実は餌としては不適で、果実を吸汁しても正常に生育できないことが明らかになりました。果実を吸汁しても果肉の厚みによって口針が種子にまで到達しないのです。では、何故果物を吸汁するのでしょうか?果樹の果実は育種によって短期間のうちに急激に大型化されたので、カメムシはその野生種を加害していた名残から、果樹を依然として「寄主植物」として認識し、加害していると考えられています。

イラスト

 このように本種は幼虫期をスギ、ヒノキなどで過ごし、成虫だけが農作物へ飛来して加害するため、いくら果樹園で農薬散布しても周りのスギ、ヒノキ林からカメムシは次々と飛んで来るので防除は大変困難です。また、農薬を多用するあまり、生態系のバランスが崩れ、従来あまり問題とならなかった害虫が大発生するといった新たな問題も出てきました。

●集合フェロモンの利用
 そんな中、最近、本種の集合フェロモンの化学構造が明らかになり、人工的に合成することができるようになりました。
 この集・合フェロモンを利用した様々な防除の試みが始まっています。
 すでに取り組みが始まっているのが発生予察への利用です。発生予察は、その年の発生量や発生時期を予測し、防除の必要性や適期などを見極めるために非常に重要な作業です。従来、本種の発生予察はライトトラップで行われていました。しかし、春や秋は夜、気温が低くなるため、カメムシがライトトラップに飛来しなくなる欠点がありました。これでは、正確な個体数は把握できません。これに対し、集合フエロモンは昼夜に関わらず誘引するため、より精度の高いデータを採ることができます。
 また、雌雄成虫が誘引される特徴から、大量誘引による防除や、果樹園に飛来してくる個体群を集合フエロモンによって人為的に制御して果樹園への侵入を防止する試みが行われています。
 このほかにも集合フエロモンで天敵を誘導する、フェロモンで誘引した成虫に病原糸状菌を接触させ再び放虫して二次感染によって感染率を高めるなど、様々な防除の可能性が見えてきます。

●おわりに
 戦後の拡大造林から三十年が経過し、スギ、ヒノキは多量の花をつけ、花粉をまき散らし、鈴なりの球果をつけています。都市部での花粉症の増加、農山村でのカメムシの増加を対岸の火事と眺めてばかりもいられません。今後機会があればこうした研究も進めていきたいと思っています。


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