広葉樹を活かした多様性のある森林づくり

(育林科)山口 清


 岐阜県の北部から北西部にかけた地域は、積雪が2m以上にも達する豪雪地帯です。この地帯においてもスギを主とする人工造林が行われましたが、積雪が障害となって不成績造林地が多く発生しています。これらの造林地の林分構成について飛騨地方の林分を対象に調査を行ったので、その概要と多様性のある森林へ誘導するための取扱いについて述べます。

1.林分の状況
 林分調査は豪・多雪地帯に15〜30年生のスギ林を対象に調査した。スギは林分の中で上層にある数本と、そのうち、伐期に達した時に利用可能な形質を備えたものの本数を調査した。
 広葉樹は、高木性の樹種本数と、その中でも有用広葉樹として扱われる樹種、本数について調査した。
 スギの本数は、調査林分の半分以上が1000/ha以下であり、これらの林分では根曲がり、幹曲がりが大きく形質の良好なスギの本数も極めて少ない。特に、全体の本数が少ない林分では形質の良好なものの本数割合も小さくなっている。
 一方、広葉樹の本数は高木性の広葉樹が全くない林分と、5万本/haに達する林分と大きな違いがある。有用広葉樹の本数も林分によって大きな違いがあるが、1万本/haを越える林分も全体の2割程度見られる。
 広葉樹の樹種は30林分で57種が見られ、高木性は34種認められる。有用広葉樹はミズナラ、ミズキが60%の林分でキハダ、ホオノキはそれぞれ40%、 37%と高い頻度で出現している。

2.林分のタイプ分け
 スギと有用広葉樹の本数から調査林分のタイプ分けを行うとつぎのとおりである。

▼不成績造林地のタイプ分け林分数(百分率)
健全林分1(3)
造林木 少ない24(80)有用広葉樹多い 19(63)
有用広葉樹少ない5(17)
造林木 多い 5(17)有用広葉樹多い 5(17)
有用広葉樹少ない0

 雪害により植栽木の残存本数の低下が激しく1500本/ha以下の林分が24林分と調査林分の8割を占めている。これらの林分では有用広葉樹の侵入が多く19林分で2000本/ha以上の侵入が見られ、有用広葉樹の侵入が少ない林分は5林分である。

3.林分の取扱い
 不成績林分のタイプ分けによると林分の多くを占めるタイプとして、造林木の残存本数が少なく有用広葉樹の侵入本数が多い林分がある。
 このタイプの林分について画一的な除伐を繰り返し、形態の悪いスギを残すような施業は不成績林化を助長することになる。
 今後の施業としては形質の良好なスギと有用広葉樹を活かした林分造成を図り、経済性が高くて多様性に富んだ針広混交林へと誘導することが最も有効な手段といえる。
 そのための森林の取扱いについて述べる。

4.針広混交林をつくるには
 飛騨地方の豪雪地帯に成林した針広混交林の調査によると、伐期に上層木となっているスギは、成育の初期から上層木であり、成育初期に被圧されて下層木になったものは、その後も上層木になることは少ない。
 樹高成長、スギと広葉樹の樹種特性等から判断すると、針広混交林は上層をスギが、上層・中層を広葉樹が優占する林形が普通である。
 そのためには、成育初期からの樹高成長はスギが優先し、広葉樹の樹高成長が追随する形が理想的である。ただし、必要以上の除伐はスギと広葉樹の樹高差は大きくなるが、除伐の繰り返しによって有用な広葉樹が衰退する可能性が大きい。 図−1は24年生のスギ林の樹高成長経過を示したものである。
 植栽後、数回の下刈りを行いその後放置された林分である。この林分ではスギが広葉樹によって被圧状態にあり、このままで経過すると形質の良好なスギも、衰退が進み、混交林の造成が困難になる。

5.施業の時期は
 施業はスギと広葉樹が樹高差を維持しながら成長することが必要で、そのための施業時期について検討した。
 図−2、3は下刈り終了後に除伐作業の行われた林分である。
 除伐は林礼12〜13年生時に行われている。除伐後10〜11年を経過しているが、広葉樹とスギの階層がはっきりと分離しており、樹高曲線の傾きから見ても広葉樹が早い時期にスギに追いつくようには見られない。
 このように、適期の除伐によってスギと広葉樹の樹高差が見られ、その後の成長も期待され針広混交林へと移行する可能性が大きい。


6.まとめ
・雪害により不成績造林地となった林分には、有用な広葉樹の侵入が多い。
・これらの林分は広葉樹を活かした針広混交林へと誘導するのが妥当である。
・そのためには、林齢12〜13年生頃の除伐が有効である。
・林の状況を把握しない画一的な除伐の繰り返しは、不成績造林地を助長するのみであり無意味である。


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