広葉樹はプロポーション

〜樹冠を考えた広葉樹林の管理を〜

(寒冷地林業試験場)横井秀一


■木が大きくなるということ
 一本の広葉樹の姿を思い浮かべてください。その木がだんだん大きくなっていきます。
 どんな姿を想像しましたか?
 枝を張り、葉を茂らせながら背が高くなっていく、それに伴って幹も太くなる、そんな姿を思い描いた人が多いのではないでしょうか。枝葉というと、枝葉末節という言葉のように物事の大切でない事柄をさしても使われますが、こと樹木の成長について言えば枝と葉(その集合としての樹冠)はとても重要なのです。樹木の大きさは、ふつう直径と樹高で表します。この二つは重要な指標なのですが、これらが数字になってしまうとその裏にある木の姿が見えにくくなってしまいます。森林、特に広葉樹林の管理を考えるのであれば、樹冠についても意識することが大切です。

■大きくなる木は樹冠も大きい
 木が大きくなるにつれ、その林の上層木の密度は低くなっていきます。これは、成長に伴って一本一本の木の樹冠が大きくなったことに他なりません。
 そこで、木の大きさと樹冠の大きさとの関係をいろいろな樹種で調べてみました。図ー1はミズナラの胸高直径と樹冠の直径との関係を示したものです。胸高直径が大きくなるのに伴い樹冠の直径も直線的に大きくなっていました。すなわち、直径が2倍になれば樹冠の直径も2倍になっており、ミズナラが大きくなるためにはそれだけの空間が必要であることがわかります。これは他の樹種でも同じことです。

■樹冠を支える下枝
 図−1で示したのは樹冠の平面的は広がりです。しかし樹冠は立体であるため、大きな樹冠はそれだけ厚みもあることになります。そうした樹冠を支えるのは枝の役目です。そこで、枝の付き方の指標である枝下高に着目してみます。

 図−2は、ミズナラの胸高直径と枝下高の関係を示したものです。直径が小さいミズナラは枝下高が低いものから高いものまで様々ですが、直径が大きくなると枝下高の高いものがみられなくなります。直径が大きくなるにつれ枝下高が低くなるとは考えられないので、枝下高が低いものしか大きくなれないとみるのが妥当でしょう。すなわち、木が大きく(太く)なるためには相応の樹冠が必要で、そのためには十分に低い枝下高が不可欠であることがわかります。

■大切なのはプロポーション
 林の状態で木が育つとき、ふつうは成長に伴って枝が枯れ上がり、枝下高が高くなっていきます。写真−1に示したミズナラ林は、こうして枝下高が高くなった(9〜13m)木が多い林分(胸高直径18〜28cm)です。枝下高が高くなれば長材が収穫できたり、何玉も採材できるなど良いことが多いと考えられます。しかし、こうした木は樹冠が小さく、将来の大径材生産を考えると好ましい状態にあるとはいえません。
 一方、写真−2のミズナラは枝下高が4mですが胸高直径は47cmあります。周囲のほとんどの木の胸高直径が22〜37cm(枝下高は10m以上)であるのに比べひときわ大きいものです。
 これまで示してきたように、枝下高と直径成長は一方を立てれば片方が立たないという関係にあります。したがって、両者のバランスをどうとるかが大切になります。例えば、クリのように末口径が20cm前後の4m材で高値がつくような樹種なら早くから枝が枯れ上がった方が有利です。片やミズナラのように40cm以上の大径材が求められる樹種では、必要最小限の枝下高を確保できた後は樹冠が十分に発達できるような管理をするのが得策でしょう。
 目的にあったプロポーション(樹形)の木が育つような管理をすること、それが広葉樹林の密度管理のポイントです。

写真-1 枝下高が高いミズナラ林
写真-2 枝下高が低いミズナラ


研究・普及コーナー

このホームページにご意見のある方はこちらまで