ケヤキを植える前に
−土壌からみた造林適地について−

(寒冷地林業試験場)横井秀一


 広葉樹の多くは肥沃な立地を好む、贅沢な木です。したがって、適切な場所に造林しないと、いつまでたっても山になってくれません。
 ここでは、広葉樹の中でも最も贅沢な樹種のひとつであるケヤキを例に、造林後の成長が立地に大きく左右されることを紹介し、ケヤキの造林適地について考えます。

◎広葉樹の造林適地の誤解
 「広葉樹を造林したが、結果が思わしくない」という話を聞くことがあります。原因についてはいろいろと考えられえすが、明らかに適地の判定を誤っているという例が意外と多くみられます。広葉樹は強い木なので痩せ地でも育つ、と信じている方がみえますが、それは明らかに誤解です。
 現在の広葉樹林の分布をみると、条件の良いところはスギなどの造林地になっており、広葉樹林は痩せ地などの条件が悪いところにしか残っていないことが多く、そこから広葉樹は痩せ地でも育つという誤解が生じるのではないかと思われます。

◎立地によるケヤキの成長差
 立地とケヤキ造林木の成長の関係を調べるため、飛騨地域にある5〜9年生のケヤキ造林地、6林分で調査を行いました。いずれの造林地も面積はそれほど広くはありませんが、そのなかでもわずかな位置の違いによってケヤキの成長に差がみられることがありました。そうした場合には、同じ林分内の複数地点で調査を行いました。

表-1 調査地の概要とケヤキの胸高直径・樹高

 結果は、表−1に示すとおりで、最も成長が良かった調査地(3)では7年生で平均胸高直径が4.9cm、平均樹高が5.2mに達していたのに対し、最も成長が悪い調査値(4)-1では9年生で平均胸高直径が0.9cm(測定できたものの平均)、平均樹高が1.1mしかなく、立地によって成長に大きな違いが生じることがわかります。同一林分内でも地点による成長の差は大きく、斜面の下方ほど成長が良い傾向が認められました。

◎土壌の性質と成長の関係
 このようなケヤキ造林木の成長の違いは何が原因しているのでしょうか。ここでは、土壌の性質(主に理学性)について調べました。

図-1 A層の深さとケヤキの平均伸長量の関係

 図−1には、土壌断面のA層の深さとケヤキの成長の関係を示しました。調査地ごとに林齢が異なるため、樹高を林齢で割った値を平均伸長量としてケヤキの成長の指標としてあります。この図をみると、A層が深くなるほど平均伸長量が大きくなるという関係が明らかです。成長が最も良いところでは、最も悪いところに比べて5倍以上の成長をしています。腐植に富むA層が深いことは造林木の成長、とくに根系が深いところまで発達していない若い造林木にとっては大変プラスになるようです。また、この図では土壌型ごとにシンボルを変えて示してありますが、A層が浅いほど乾性の土壌型になっており、A層の深さは土壌型ともよく対応していることがわかります。

図-2 土壌の透水性とケヤキの平均伸長量の関係

 図−2は、土壌の透水性とケヤキの平均伸長量の関係を示したものです。透水性は、土壌内の水の動きやすさを示す指標で、100cc/分以上が良好な土壌、50cc/分未満が不良な土壌であるといわれています。この図から、透水性が高いほどケヤキの成長が良いという傾向が認められます。調査地(1)と(4)の同じ林分内で比較すると、そのことが一層はっきりとわかります。透水性が高いほど水はけや通気性が良くなるため、根の活性が高くなり、ケヤキの成長も良くなるのだと考えることができます。

◎まとめ
 ケヤキの成長が林分間、あるいは同一林分内でも大きく異なっていたことから、ケヤキが立地の違いに敏感に反応する樹種であることがわかりました。ここに示した結果から、ケヤキの造林適地は、斜面のより下方のA層が深く透水性が高い立地だといえます。
 今回調査した林分は、いずれも褐色森林土系の土壌であったため、A層の深さと土壌型とは良く対応していました。また、土壌の透水性は土壌の構造、堅密度、堆積様式などと密接な関係を有するため、透水性の良・不良もまた土壌型とある程度対応すると考えられます。したがって、土壌型による適地の判定は総合的な指標として有効な方法で、ケヤキの成長を期待して造林するのであれば、BE型かBD型の土壌を選定し、それより乾性な土壌は避けた方が賢明であるといえます。
 簡単な適地判定の方法としては、地形からある程度の土壌型を類推し、林床の植生を観察するか軽く土を掘ってみて、適地判断をすればよいと思います。すなわち、山脚から斜面下部のできれば凹斜面から平衡斜面で、林床にウワバミソウやオシダといった湿性の立地を好む植物が生育し、土を掘ったとき適度な湿気を含んだ黒みのある膨軟な土が深くまであれば、そこは土壌的にケヤキ造林の適地であると考えて間違いないでしょう。


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